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Rating:
Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationship:
Characters:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2018-05-26
Completed:
2018-05-26
Words:
11,015
Chapters:
2/2
Kudos:
2
Bookmarks:
2
Hits:
178

地獄の三丁目で踊る

Summary:

高校から付き合う及川と岩泉と、周囲の人たちの話。 
岩泉一人称

オリジナルキャラクター(及川の家族、岩泉の家族、友人、その他大勢)がいます。
作品内に同性愛に対する恐怖感・嫌悪感・拒絶の描写が含まれています。

Notes:

pixivに投稿した作品をAO3に再掲します。

Chapter 1: Chapter 1

Chapter Text

0 二人
絵本の中では王子様とお姫様が結ばれる。アニメの中では女の子と男の子が意地を張りあって、でもお互いを意識している。ドラマの中ではかっこいい男の人と、かわいい女の人がラブストーリーを繰り広げている。映画の中では美しいヒロインが勇ましいヒーローを待ち焦がれている。現実では男女が出会って恋愛をして結婚して子供を産んでお父さんとお母さんになるのが推奨されている。
なぜこんな事をくどくどと説明しているのかっていうと、俺にとってこの世で一番大事なのは及川徹で、それ以外の人間はどうでもいい。その及川が俺に、好きだ、付き合いたい、と言った。重要なことはそれだけだ。
5月の日差しは容赦なく人間を照らす。体育教師の指示に従って日陰に入っても汗がひかない。昼食前の体育は暑いし、腹が減るし、集中力が途切れそうだ。授業が終わったら、水を頭からかぶっていこうかと考えていた俺の腕をつかんで、授業後に時間をくれと言ったのは及川だ。普段のようにふざけてじゃれついてきていたら、やり返すところだが、まじめな顔をした及川をふりきることなどできなかった。
及川は顔と耳と首筋を真っ赤にして、俺の目の前に立っている。クラスメートはとっくに教室に戻ったし、体育教師も片づけを済ませていない。昼休みの放送が近くの教室の窓から聞こえる中、校庭の隅で向き合っている。
及川の告白を受けて、俺は冒頭の理屈が頭の中に浮かんだ。今までずっと及川に対する気持ちをせき止めてきた理屈だった。でも、目の前の及川を見てどうでもよくなった。俺にとっては、周りの人間が言う正しさよりも、及川が一番大事だ。
「好きだ、及川」
及川は半信半疑という顔で、俺の両手を掴んだ。及川の手も、俺の手も汗ばんでいて、掌の間で砂が擦れる。
「岩ちゃん、本当に?本当?」
及川は信じられない、と言う顔をするので、俺は及川の両手を握り返した。
「本当だ、及川」
及川はパッと俺の手を離すと、勢いよく抱きついてきた。俺は背中から倒れこまないよう及川を受け止めると、耳元で笑っているんだか泣いているんだかわからない声が聞こえる。俺はおそるおそる両手を及川の背中に回した。及川の背中は震えていた。
真昼の太陽にあおられて、周囲の気温はますます上がるばかりだ。二人とも汗まみれで、おまけに及川は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていたし、そのうち昼食を食べ終わった生徒たちが外に向かう声が聞こえてきたので、俺たちはあわてて離れて、走って水飲み場まで行った。顔やら頭やらを洗って、水にぬれた顔を見合わせた。及川は髪が崩れて、前髪が額に張り付いている。俺は水を勢いよく出しすぎて、体操着の上までべたべただ。それでも及川は笑っていたし、俺は及川から目が離せなかった。

1 クラスメート
部活終わりの帰り道で隣を歩いていた及川が、岩ちゃんキスしたい、と突然言い出すので、俺は食べかけのアイスを落としそうになった。8月の熱波は、ついさっきまで冷凍庫に入っていたアイスでさえすぐに溶かしてしまう。いそいでアイスにかじりついていたから、及川の不意の発言に驚いた。
隣を見ると、及川は手に持ったアイスに一口もつけずに道の向こうを睨みつけて思いつめた顔をしている。午前中で部活が終わったから、今は夏の真昼間だ。この時間帯の住宅街に人影はないし、ほとんどの家は冷房を入れているから、窓を閉め切っている。セミがうるさいくらい鳴いていて、俺は及川と世界に二人きりのような錯覚に陥る。
「及川、アイス溶けるぞ」
「そんなのいいよ。ねえ、岩ちゃん。俺、嘘ついた」
及川はアイスの棒をぎゅっと握りしめる。アイスが垂れて及川の手を汚す。
「この間、クラスの子に今付き合ってる人いるのって聞かれた。」
俺はアイスを落とさずに全部食べ切った。
「俺は迷って、岩ちゃんのこと考えて、いるよって言いかけたけど、言えなかった。いるよって答えてどんな子って聞かれたら、どうしようって思った。だけど、いないよって言ってから後悔した。俺、岩ちゃんのこと隠して嘘ついた」
俺は及川の手からアイスを取り上げた。及川は何も言わない。アイスに反応しない及川は相当悩んで落ち込んでいる。俺はアイスにかじりついた。半分溶けたアイスはどろどろとして口当たりがよくないが、味は変わらないからうまい。
俺はちくりと胸を刺されたような気分だった。普段考えないようにしていることを、及川にまっすぐつきつけられて、何も言えないでいる。
「どうして、俺、言えなかったんだろ。何にも恥ずかしいことじゃない。悪いことじゃない。岩ちゃんのこと大好きなのに、なんで」
「及川はどうしたいんだ。俺と付き合ってること言いたいのか、言いたくないのか」
アイスを食べ終えた俺は及川の横顔を見つめた。
「言いたい。ちゃんと言いたい。誰になんて言われてもいい、俺、岩ちゃんが好きだよ」
「そうか」
俺は及川に好きだと言われると、嬉しいが照れくさい。照れくささと胸の痛みをごまかすように、エナメルバックの紐をいじる。
「それで、キスしたいってのと今の話は関係あるのか」
紐に手をかけたまま今度は俺が道の向こうを見る。付き合って少し経つがまだ一度も及川とキスをしたことがない。自分の顔が赤くなっているのがわかる。
「うん、すごく好きだって思ったから、キスしたい」
俺はちらりと横目に及川を見た。及川は顔を赤らめて明後日の方を向いている。俺は及川の手を掴んで、電信柱の影まで引っ張っていった。
「及川」
及川の頬に両手を添えて強制的に視線を合わせる。顔が近くて心臓の鼓動がうるさい。熱くて頭がどうにかなりそうだ。
「岩ちゃん」
及川が囁いて顔を近づけた。俺は目を閉じて及川が動くのを待った。唇より先に互いの鼻がぶつかって、俺は思わず目を開けた。及川はびっくりした顔で固まっているので俺は笑いを抑えることができなかった。及川の顔から手を放して思い切り笑っていたら、及川は、ちょっと、ひどい岩ちゃん、と怒って、俺を置いて歩きだした。俺は及川を追いかけて、悪い、と謝って、及川はこういうの慣れてるかと思った、と言うと、及川は身体ごと勢いよくこちらを向く。
「さっきのファーストキスだよ」
真面目な顔をして言うので、俺は面食らった。もう一度、悪い、と謝る。
「鼻がぶつかっただけだから、キスとは言わねーよ」
「そうだけど」
「そんなら、帰ったらキスの練習するか」
及川はまたびっくりした顔で固まっている。俺は自分が何を口走ったのか自覚して、叫び出しそうになった。何言ってんだ。俺が否定の言葉を口にする前に、及川は俺の手を握って走り出した。
「おい、及川、なんだよ」
「岩ちゃん、早く帰ろう、練習しよ」
及川が真っ赤な顔をしながらも笑っていた。俺は及川が少なくとも落ち込んでいないことにほっとした。
その日は部屋で練習を続けたせいで唇が痛くなったが、頭がふわふわとして気持ちよかった。

2 親
正月は毎年親と初詣に行く。今年は及川と行きたかった。及川に聞くと、俺も行きたいと乗り気だった。及川が、俺と付き合っていると言いたい、と告げた時のことを覚えている。俺は及川の決断を無下にしたくなかった。
夕食の席で、及川と付き合っていること、初詣は及川と二人で行きたいことを包み隠さず母親に話すと、母親はあっけにとられたように俺の顔を見た。あなたはまっすぐに物を言う、と指摘される。
及川の家と俺の家は近所で、俺は及川の家でよく夕食を一緒に食べる。俺の家が母親一人で、働きに出ていたから、昔から及川の家に預けられていて、その習慣が今でも残っている。詳しいことは知らないが、俺の母親と及川の母さんがもともと友達だったらしい。二人が休日に話し込んでいる姿をよく見かける。及川はよくしゃべるが、及川の両親も話好きだ。俺は母親以上に、及川や及川の母さんや、及川の父さんと話をしている。
それに比べて、俺と母親は奇妙な二人だと思う。嫌悪しているわけでもないが、好意を持っているわけでもない。関心が薄く、信頼できるが、愛着はない。俺は及川や及川の両親のほうがよっぽど話しやすいし、母親は及川の母さんといる方がしっくりくる。母親は俺のことを奇妙な生き物だと思って、俺は母親のことを遠い他人のように思っている。それでも母親は俺を何とか分析しようと試み、俺は母親にどう接したらいいか探っている。
母親は最終的に、徹君といってらっしゃいと言った。母親が俺のことをどう思ったのか相変わらずわからなかったが、言質は取れた。
翌日、俺は朝練が終わった後に及川を捕まえて、人気のない廊下まで移動すると、親に許可をもらったことを話した。12月になると暖房の入らない廊下は一層冷える。及川は唖然とした様子で、俺のブレザーの裾を掴んだ。
「岩ちゃん、思い切ったことするね」
かっこいい!おっとこまえ!と茶化すので、手刀を頭に叩き込む。及川は大げさに痛がり、岩ちゃん、ひどい!とうるさい。
「別に、付き合ってるやつと行きたいって言うくらいいいだろ」
そう言うと、及川は照れたように笑って、俺、お母ちゃんに言えるかな、と呟く。俺は及川の手をそっと握る。いつも暖かい及川の手が今は冷たい。温めるように両手で覆うと、及川は静かに笑う。
「岩ちゃん、今日一緒にうちに来て。お母ちゃんに岩ちゃんと初詣に行きたいって言うんだ」
放課後、及川の家に行くと、及川はそわそわした様子で玄関口に腰かけていた。こんなところで何してんだと聞くと、岩ちゃんを待ってたんだ、と及川は俺を見上げた。不安そうな表情で、自分の洋服の裾をいじっていたのか、服がよれている。
俺が靴を脱いで家に上がると、及川は俺の後ろにくっついてくる。俺が台所で忙しそうにしている及川の母さんに、お邪魔します、と言うやいなや、俺の隣で及川は今度の初詣なんだけど、と切り出す。
「岩ちゃんとデートに行く」
及川の母さんはこちらを振り向いた。驚いた顔が及川にそっくりだ。驚いた顔のまま、及川の母さんはしゃべりだす。一ちゃんと付き合っているの?いつから?きっかけは?及川は、そういうのはいいから、と焦れたように投げかけられた言葉を無視する。俺、岩ちゃんと二人っきりで行きたい、と主張する。及川の母さんは驚きが抜けたのかいつもの調子を取り戻した様子だった。
「そういうことなら、徹、一ちゃんと行ってきたらいいんじゃない」
及川の母さんは、初詣は人が多いから気をつけなさい、それと、遅くなるならちゃんと連絡しなさい、と心配しながら釘を刺す。及川と俺はバレーに集中しすぎて帰りが遅くなることがしょっちゅうある。そのたびに、あまり遅くならないように、それから、連絡しなさいと及川の母さんは言うから、口癖のようになっている。
及川は、うん、わかってる、と相槌を打って、及川の母さんが再び話し出す前に俺の手をひっつかんで廊下へ引っ張った。
廊下まで出たところで、及川は俺に抱きついて肩口に顔を押し付けた。小さな声で、よかった、とほっとしたように言うので、俺は、そうだな、よかったと及川の背を撫でた。

3 花巻
授業とHRが終わって、教室を出たところで、俺は及川を見つけた。及川は教室の外で俺を待っていたようだった。及川は俺を連れて部室に向かった。今週はテスト週間だから部活はないだろ、忘れ物か、と聞くと、及川はううん、と生返事だ。部室に入ると及川はドアの内側から鍵をかけた。俺は及川のいつもと違う様子に違和感を覚えた。及川は切羽詰まったような表情で俺を見下ろした。
「岩ちゃん、ごめん、キスしたい」
そう言うなりキスしてきたので、俺は驚きつつも及川に付き合った。嫌だったら殴ってでも抵抗するが、及川とキスするのは好きだし、誰も部室には来ないから特段及川を止める理由もない。俺は及川の頭と肩に手を回した。息が苦しくなったら離れて、またすぐに口づける。しばらくして、及川は満足したのか唇を離した。俺の肩口に顔をうずめ、ごめん、と謝る。及川がおかしい。
「別に謝ることじゃねーだろ。何かあったのか」
「うん」
それきり何も言わないので、続きを促すように俺は及川の肩を撫でた。及川は一年前に比べると体ができて、しっかりとした輪郭になった気がする。
「あのね、気分のいい話じゃないよ」
及川はぎゅっと俺を抱きしめる腕に力を入れた。話そうとしてためらう及川は珍しい。
「歴史の授業で古代ギリシャの神聖隊の話題になって、先生が笑って気持ち悪いって言うんだ」
一息でそう言った及川は、乾いた声で笑った。
「先生がそう言えば周りのみんなも笑うんだよ。でも俺は何も面白くなかった」
怖かった、と震える声で言う。
「つい、岩ちゃんに甘えたくなった。岩ちゃんは怖いこと言わないから」
俺は及川を思い切り抱きしめた。
「そいつむかつくな、ひどいこと言いやがって」
俺が怒っていると、及川は苦笑する。
「先生は悪気なかったんだろうけど」
「悪気があろうがなかろうが、お前は怖かったんだろ」
うん、と及川はくぐもった声で鼻をすする。泣き出すのを我慢してここまで来たのかと思うと、教師の言動が腹立たしくて憎らしい。
及川が泣き止んだころ、帰ろうと部室を出たところで、花巻とばったり顔を合わせた。花巻は最近実力をつけてきた同学年の部員で、最近話す機会が多かったやつだ。
花巻は、部室に第三者がいると思わなかったのか、俺を見て驚いたようだった。及川の泣きはらした顔を見て更に驚いたのか、ごまかすように言った。
「なんだ、お前ら、邪魔して悪かったな、取り込み中だった?」
愛の告白でもしてた?と冗談めかして言うので、俺は八つ当たり気味に、そうだよ、と言うと花巻は笑い出した。及川はぎょっとしたように俺を見た。
「及川と岩泉が付き合ってるって言われても、全然意外性がないな」
「付き合ってるのはマジだから笑うなよ」
俺が真顔で言うと、花巻はつられて真顔になり、マジか、と言う。及川は何も言わずにいる。花巻は俺ら二人を見て、納得したかのようにうなずくと、俺と及川の背中を思いっきりひっぱたいた。いてえ。
「何があったのか知らねーけど、泣くほどつらいことがあったら相談しろよ。あんま、頼りになんねーかもだけど」
花巻は、お幸せに、と笑顔で言って、部室に入っていった。及川と俺は顔を見合わせて、狐につままれたような顔をした。花巻がああ言ったのは本心なのか、そうでないのか、俺には分らなかった。ただ、肯定的な言葉が返ってきたのが何よりうれしいことだった。及川は、帰ろう、と一言言って俺の手を握った。ずいぶん泣いたせいで鼻声だ。
「そうだな、帰ろう」
俺と及川はぽつりぽつりと他愛のない話をしながら、手をつないだまま帰った。