Chapter Text
すやすや眠る息子を腕に抱えながら、ロキは顔を上げて立っていた。生まれたばかりの赤ん坊の肌は白く、髪は輝く金色である。荒れた毛の生えない、分厚い革のような青い皮膚。まるでロキの横に立つ夫スリュムには似ても似つかない姿であることを、自らに課して生まれてきたかのようだった。この呪われた結婚の直前にロキが手にした最後の自由な夜、そこで出会ったアスガルドのとある王子に赤ん坊はそっくりだった。
ロキの父親は王座に腰をおろし、出来る限り苛立った様子を装ってみせると、咳払いをしつつ質問を投げかけた。「それで?ロキ、何か説明する気はないのか?」
「特にありません。」
「ロキ…」ラウフェイは天を仰いだ。
ロキは体を傾け自分の夫を眺めたが、今にも殺されそうな視線にあってすぐに目をそらせた。「もし慰めになると言うのなら申し上げますが、この子は愛しい夫君の子であるとばかり思っていました。」もちろんロキはそんなことを考えたこともなく、自分に似た子が生まれたらラッキーだと願っていたに過ぎない。
スリュムは嘲笑い、ラウフェイは厳しい目で問うた。
「誰なんだ?」
「実はあの夜は飲みすぎてしまって、詳しくは覚えて…」
「ロキ!」
身を乗り出したラウフェイの声は広大な広間に響き渡りロキの胸を震わせた。
ロキは少しだけためらい唇を噛み締めた。赤ん坊は喉を鳴らし青い目を瞬かせ、小さな両手を伸ばしている。「オーディンの息子。ソー。」ついにそう告げると、その声はなぜか自分が意図したより弱々しく響いてしまった。
スリュムが唸りながら手近の氷柱を殴りつけると、それは粉々に砕け散った。その音に驚いた赤ん坊が泣き始めてしまい、ロキは息子をなんとか落ち着かせようとした。
スリュムはロキに向かって指を突きつけた。「私がこの赤ん坊は育てることはないし、あなたの寄こしたこの売女との結婚を続けるつもりもない。我々の契約はこれでおしまいだ、ラウフェイ!」
ラウフェイは眉間を指で押さえた。「ああ、もちろんだ。後で条件について話し合おう。さあ、行ってくれ。」
スリュムはロキに向きなおり最後の一瞥を寄越すと、荒々しく立ち去っていった。やっと静かになり始めた息子をあやしながらロキは天を仰いだ。
「正直言って、この結婚が上手くいくだなんてよく思えたものですね。スリュムが私を気に入るわけがない。」
ラウフェイはさらに強く眉間を押さえた。「この結婚は王国に利益をもたらすためのものだ、ロキ。お前が出かけて行ってこんなことさえ起こさなければ、全て上手くいくはずだったのだ。」と、ロキの腕の中を示しながらラウフェイは言った。
「妊娠を望んだわけではありません、父上。私はただ、あの楽しそうな結婚相手に縛りつけられる前にあと一晩楽しみたかっただけなのに。」ロキはスリュムが出て行った方向に頭を傾けた。
「激怒したスリュムを相手にしなければならなくなったことをお前は理解しているのか?」
「彼にそれ以外のバージョンなんてありましたっけ?それに父上はあいつとキスする必要なんてないでしょう?ビルジスナイプとディープキスした方がまだマシだ。」ロキは身震いしながらそう付け加えた。
ラウフェイは頭を振り、王座にずるりともたれた。「さて、お前と…『彼』をどうするか…」
うたた寝している息子の顔を眺めながらロキは笑顔で肩をすくめた。「『彼』はとてもキュートな人ですよ。」
ラウフェイはため息をついた。
「オーディンと話さなければ…」
ロキは王座に歩み寄った。
「ああ、そうだ、父上。ソーには私から話をさせてください。」
