Actions

Work Header

Rating:
Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationships:
Characters:
Additional Tags:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2022-03-13
Words:
3,142
Chapters:
1/1
Kudos:
19
Bookmarks:
2
Hits:
1,020

Like a Soapopera

Summary:

S02E15 AU. What if Edward didn't send away brainwashed Oswald and just took him in.

Notes:

I'm not sure if I'll translate it in English later, or not.

Work Text:

「ただいま」

 エドワードがアパートメントの引き戸を開くと、ナイフを手に握った男が右足を引きずりながら出向かえた。オズワルド・コブルポット、かつてゴッサムの闇社会に王として君臨した男。ペンギンというユーモラスで愛らしい異名にも関わらず、その名は一般市民や犯罪者のみならず警察や市当局をも震え上がらせるほどであった。

「おかえり、エド! 今日は鶏のパプリカーシュを作った。今サラダ準備してるところだけどすぐ終わるから」

 ゴッサム最大の犯罪組織のボスだった青年は、その骨ばった身体には大きすぎるフード付きスウェットの上に白と青のピンストライプのエプロンを纏った妙に家庭的な姿で、エドワードに柔らかく微笑んでいた。

「オズワルド、まだ体調良くないんでしょ? そんな事しなくてもデリバリーでいいのに」
 エドワードがコートをラックに掛けながら尋ねると、オズワルドは少し神経質そうにクスクスと笑った。

「もう平気だよ。それに、ぼくにはこんなことでしか君にお礼できないんだ。今はまだ出かけるのは危ないから、仕事を探しに行くとか働くとか駄目なんでしょう?」

 オズワルドは少し顔を曇らせる。借りを作るのは好きではないのは以前からは変わってないようだったし、ずっとこのワンルームに閉じこもってないといけないのはフラストレーションの溜まることだろう。エドワードは申し訳無さそうな顔で頷いた。

「うん。必要な物があったら買ってくるから、メモしといて。あんまり高いものは無理だけど。僕がいいって言うまで外にでちゃ駄目だよ」
「……サイズの合う服、欲しいかも」

 オズワルドは自分の足元を見る。エドワードよりも背が低く痩せた身体は借りた服の中で泳いでるようで、いくら捲くりあげようとしてもスウェットパンツの裾を引きずらざるを得なかった。

「僕の限られた予算で賄える範囲で我慢してね。君が前に着てたようなビスポークの三つ揃えとかは無理だし。僕の給料何ヶ月分なのアレ?」
「さあ……多分、四ヶ月分くらい? 君の給料とか覚えてないよ。ジムのなら覚えてるけど」
「ジムのは判るの!?」

 オズワルドは頬を染め、目を逸し、下唇を噛みはじめる。

――どうして顔を赤らめてるんだ。ジムのことだから? 自分が犯したギャラバン殺しの罪で君をアーカムに送って知らん顔してた男のことで!?

 エドワードの中で醜い何かがうごめくのを感じた。

「あの、……ぼくがまだ犯罪者だった頃……ゴッサム市警の職員の収入とかは把握してた。ああ、その、そう、悪い目的で……さすがにいちいち全員のを空で言えるわけじゃないけど」

 もごもごと口籠りながら潤んだ目で詫びるようにちらりとエドワードの顔を伺う。奸計と傲慢と雄弁で知られたあのオズワルド・コブルポットが、ヒョロガリオタク男に向かって内気そうに話す姿は何度見ても超現実的な光景だった。

「あ、ああ……そうだね、買収するには相手にどれくらいの収入や借金があるかとか知っておかないとね」

思わず安堵のため息を漏らす。ただのジムの名前をオズワルドが口にしただけで動揺した自分が酷く愚かしく思えた。

「……もう、そんな悪いことはしないよ? ぼくは変わったんだ」

 元闇社会の帝王は口を微かに尖らせて肩を竦めてキッチンへと向かい、サラダの準備の続きをはじめた。

 

 どうしてこんな事になったのか、エドワード・ニグマの明晰な頭脳にとってもそれは大きな謎だった。

 

 

 

 オズワルドがアーカム・アサイラムから出所してエドワードの元を訪ねてきた時、その完全に邪気のない笑顔と遠慮がちな態度は、彼の纏った羽毛まみれの帽子とコートよりもエドワードを困惑させた。正気になったというオズワルドの言葉とは裏腹に、彼は明らかに『まとも』ではなかった。
「暴力や復讐では何も解決しないよ」と優しく穏やかに、諭すように言われた時は、今まで見聞きしたいかなるペンギンの犯罪歴や脅しよりもエドワードの背筋を震わせた。

――アーカムは一体、ペンギンの頭に何をしたんだ……?

 恐れの中で、科学者としてのエドワードの好奇心が頭をもたげる。だが、ジム・ゴードンを陥れる計画に忙しい最中、どうやら暴力的な行為に嫌悪感を持つようになったオズワルドを引き止めるのは多大すぎるリスクのように思えた。それに、この『善いペンギンさん』はどこか気味が悪かった。

「ごめん、僕、今ちょっと忙しくて……あと、今のペンギンさん、ちょっと……」

 とりあえず後で暇になったら連絡しようと決めて、追い返そうとした矢先、オズワルドの妙にきらきらとした目が作業中だった作戦書を捉えた。しまったと思った瞬間にはもう遅かった。その大きくて綺麗な緑の目がゆっくりと瞬きをして、背の高い『友人』を見上げる。
「……エド、ジムになにかするのか? そういう事、辞めた方がいいよ」

 街で最も恐れられる凶悪な犯罪者であるはずのペンギンが、正義漢気取りとして爪弾きにされがちなジェームス・ゴードン刑事を特別扱いしていることは、ゴッサム市警の多くが勘付いていた。
このまま彼を行かせてしまう方がより大きなリスクを犯すことになるかもしれない。引き止めてしばらく様子を見るべきか……エドワードが逡巡する間も、オズワルドは眉を顰めて計画書に目を通していた。

「この計画、アマチュアが陥りがちな穴だらけだ」

 滔々と説明を始めるオズワルドを、今度はエドワードがゆっくりと瞬きをして見る番だった。

「――もし逮捕されてアーカムならまだしもブラックゲート送りとかになったら、エド死んじゃうかも……ぼくも収監されたことは無いけど、経験者から色々話は聞いたことあるから」

 友人への懸念で口をへの字にする、蝿すら殺さなそうな青年を創り出すために、例えアーカムが彼をペンギンたらしめた全てを剥ぎ取ったとしても、その最大の武器であった鋭い知性までは奪えなかったようだった。
この甘く優しく穏やかなオズワルドの奥には、未だに狡猾で残忍な本来のペンギンが密かに潜んでゴッサムの闇社会を再び急襲する機会を……彼にとって特別な『誰か』がそれを見出すのを待っている……その思いはエドワードに天啓のように閃いた。

「……ペンギンさん、行くところないなら、僕のところにしばらくいてください」
「エドワード、いいのか? 君には迷惑はかけたくないんだ……」

 かつてのペンギンの目には潜んでいた脅威や危険を何も宿さない、虚ろで、壊れた、ひたすらに綺麗な翡翠色の瞳の対が見上げていた。
それはエドワードの奥底の一番暗くて醜い部分まで覗き込み、映し出すようだった。

――以前にペンギンさんが僕を真の殺人者となるべく導いてくれたように、今度は僕が彼を元の殺人者の世界へと連れ戻す番だ。

「ええ、もちろん。友達でしょう?」

 

 

 

「パプリカーシュ、ハンガリー料理だね。お母さんのレシピ?」
「そうだよ。口に合うといいけど」
「君の料理はいつも美味しいよ。こんなに上手なんて思いもよらなかった」
「母子家庭だったから、母さんが働いてた頃は何でも手伝ってたしね。一時期はレストランでコックとしても働いてたこともあるよ? ……まあ、殆どは皿洗ってただけだし、すぐ支配人になっちゃったからあまり関係ないけど」

 ジムを陥れる計画のことを、誰にも嘘をつくことができなくなったオズワルドが漏らしてしまわないように引き止めつつ、彼をペンギンへと戻そうとしていたはずのエドワードだが、一向に元に戻る気配を見せないオズワルドとなんとなく奇妙に家庭的な日々を送るようになっていた。

――家に帰ったら誰かがご飯を作って待っていてくれて、二人で食卓を囲んで手料理を食べて一緒のベッドで眠る毎日だなんて、まるでTVドラマの幸せ新婚家庭みたいだな。

 エドワードは鶏肉を口に運びながら脳内で一人ごちた。

――その人は新婚ほやほやのお嫁さんとかじゃなくてアーカムで洗脳されて大人しくなっちゃった元マフィアのボスだし、僕も素敵な旦那さまとかじゃなくて職場じゃ馬鹿にされてる陰キャのオタクで好きな女の人とその元カレを殺した犯罪者だし、ここも青い空に芝生の庭に白いフェンスのある郊外の白いお家ってわけでもなく年中曇り空か雨のゴッサムの真っ只中の工場をリノベしたむさ苦しいワンルームアパートメントだけど。

 ここはゴッサム。そういう暮らしもアリかナシかって言われたらアリなのかな? と、エドワードはお嫁さんではないけど可愛い元ギャングの作ったパプリカーシュを噛み締めた。