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Rating:
Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationships:
Characters:
Additional Tags:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2023-09-18
Completed:
2023-09-18
Words:
15,809
Chapters:
5/5
Kudos:
9
Hits:
139

Dream in the classroom

Summary:

・ホブのZoom授業に写り込む猫のモルフェウスと、ホブの教える大学に通う学生たちのお話です
・モブ視点(学生)で進むパートがあります
・再創造されたコリント人がチラッと出ています。
・CPというより、ホブの片想いに近い感じになりました
・Pixivにも掲載します

Chapter Text

火曜日のzoom授業
授業が始まって直後、あたしは思わず欠伸をもらした。

昼過ぎだから仕方がない。それにzoom授業だし、と心の中で言い訳をする。ホブ先生の授業はいつも面白い。先生はまるでその場にいたかのように話すし、事実を淡々と述べるのではなくてストーリー仕立てで話してくれるから、ついつい引き込まれてしまう。先生の授業がいつだって人気なのはそのおかげだ。
でも、昼過ぎの授業は先生の声が子守唄にしか聞こえない。昨日の夜にネットフリックスのドラマを一気見したのがまずかったか。船をこぎ始めたとき、PCから聞こえた先生の声であたしの目が覚めた。
「その知らせを聞いたおれは……いや民衆は、あっ!」

PCの画面を見ると、先生が黒い猫を抱えていた。どうやら、猫がPCのカメラに近づいたのを引き留めたらしい。先生のペットだろうか。でも今まで、猫を飼っているなんて聞いたことがない。
先生が落ち着かせると、黒猫はようやく膝の上に座って、青い目を画面に向けた。
「いい子だから、これ以上PCに近づかないでくれよ。授業ができない」
先生に返事するかのように、猫がしっぽを振った。
途端に、チャット欄はハートマークの絵文字と「かわいい!」のコメントで沸き立った。さっきまで授業の質問をしていたのに、もう見る影もない。あたしもハートマークを送ると、先生がチャット欄に目を向けた。
「みんな、これくらい歴史にも熱心だといいが……えっと『猫飼ってたんですか?』いや、こいつは友人……じゃなくて友人の飼っている猫だ。今日のゲストだ。今日、おれの授業を聞きたくて家に来たらしい。みんな、受け入れてくれ」
コメント欄は「もちろん!」の文字とサムズアップの絵文字で溢れかえった。誰だって猫が好きだ。しかも授業に来てくれるなんて大歓迎だ。zoom授業に感謝しなきゃ。

数十分後、再びあたしは眠気に襲われていた。猫ちゃんのおかげで眠気が消えたかと思ったけど、ドラマの一気見がまだ尾を引いていたらしい。それにしても先生の友人の猫ちゃんはよく眠らないなと感心した。最初に現れてからずっと、猫ちゃんは先生の膝の上におとなしく座って、PCの画面をじっと見つめている。普通、膝の上に乗ったら猫は寝るものだけれど。この猫ちゃんは時々先生を見上げるだけで、眠る様子はまったくない。対してあたしは、眠気と戦っていた。
一瞬だけ、一瞬だけ。と目を瞑った。先生の声が遠くなり、すうっと意識が遠ざかる感覚に身を任せた。眠りはしない、ちょっと目を休めるだけ……。

<メアリー、授業に集中しなさい>
突然聞こえた声に、あたしは体をびくっとさせた。椅子からころげ落ちそうだった体勢を、なんとか立て直す。今の声、誰だろう。先生の声とは全然違う、低い声だった。
PCの画面に視線を戻すと、授業のスライドは次のページに移っていて、あたしは慌ててペンを握った。そうしたら画面の猫と目が合った。一瞬、猫の青い瞳が輝いて見えたのは気のせいだろうか。

翌週のzoom授業
「ホブ、そっちにマイロードが、っと、授業中か」
ホブ先生のzoom授業中、写り込んだ男性のおかげでチャット欄が湧きかえった。
先生の書斎のドアを開け、覗き込んだ「彼」は室内だというのにサングラスをかけていた。ちらりとしか見えないが、体格はモデルみたいにすらっとして、誰もが目を奪われるような美しい身のこなしだ。

<誰?>
<マイロード?>
質問が一斉にチャット欄で生まれる。一方、先生は何でもない風に、金髪のサングラス男性が家にいるのが当たり前かのように軽く答えた。
「こっちにいない。キッチンじゃないか? 授業の直前にキッチンに行った」
「そうか、すまん」
そして名も知らぬ男性は扉を閉めた。
「授業を中断してすまない。彼は、あー……友人の……部下だ。たまたまここに来ている。マイロードって呼んだのは、えーと、ほら、預かっている黒猫だ。先週の授業に出た人なら覚えていると思うが。じゃあ、続けるぞ。フランス革命後の恐怖政治は……」
先生の話を聞きながら僕の頭にあったのは、先生が口に出した「預かっている黒猫」だった。あの気品に満ちた佇まい、美しい毛並みは確かに「マイロード」と呼ぶのに相応しい。
だけど……僕は一つ気になることがあった。
「キッチンに猫?」
僕の独り言が自室に響いた。これは明日、先生に聞いてみなければ。

翌日、大学でホブ先生を見かけた。よし、とぼくは覚悟を決めた。
「先生、こんにちは」
「やあ、ジャック。課題の提出か?」
「いえ、昨日の授業のことで」
そう切り出すと、先生は「またか」という顔をした。
「今日で6回目だ。サングラスの彼だろう? 残念ながら、彼について教えられない。ついでに言えば、なるべく近づかないほうがいい」
「サングラスの彼?」
僕が聞き返すと、先生は「違うのか?」と尋ねた。
「いえ、僕が聞きたいのは猫のことです。先週、授業に出ていた黒い猫。昨日はいませんでしたが」
答えると、先生は「ああ。なるほど」と安心したような顔をして、それから続けた。
「先週も言ったが、友人の猫で……」
「昨日は、キッチンに追いやっていたんですか?」
聞くと、先生は頷いた。何か問題でも? と表情は語っている。
「先生、猫にとってキッチンは危険です。預かっている猫でしょう? 環境だって不慣れなのに、キッチンに放つだなんて。危なすぎます」

僕の言い方に気圧され、先生は一歩退いた。言い訳するかのように手を振る。
「いや、モル……じゃなくて、あの猫が怪我することはないよ。うん、凄く賢い猫だから」
「先生、キャットタワーか猫用ベッドを書斎に置きませんか?」
突然の話題に、先生の目が「なんで?」と語っていた。
「キャットタワーを置けば、書斎の本棚を荒らされることはないです。キッチンに放つより、目の届くところにいたほうが安心です」
主に、僕の心が。とは付け加えなかった。
「目の届くところに猫がいたほうが、友人さんも安心ですし」
それに、できるなら授業中に猫を見たい。と言いたくなったが我慢した。
「キッチンに追い払ってしまったのは、わざとじゃなくて」
ホブ先生が呟き、そして堰を切ったように話し始めた。
「モル……あの猫が映ってから、『猫ちゃんかわいい』『もっと見せて』で、授業に集中できない学生が出てきて大変だったんだよ。俺もずっと膝に乗せていると、足が痺れてつらくて。でも彼は乗りたがるし。それで『どこか別の場所で授業を聞いてくれないか』と聞いたら、拗ねたのかキッチンに行ってしまって、後で聞いたら途中で帰ったらしい。俺は書斎のどこかで聞いてくれればそれでよかったんだが。そうか、キャットタワーか……置けば、また来てくれるかな」

話し終えた先生は、「すまんな、こんな話」とだけ謝った。なるほど、そういう事情ならば仕方がない(「途中で帰った」が少し気になったが。飼い主さんが迎えに来たのだろうか)。あと一押しと思った僕はスマホを取り出した。
「お勧めのタワーとベッド紹介します」
明らかに鼻息荒くなった僕に、先生は面白がるような目を向けた。
「ジャック、営業のトークみたいだな」
「僕、キャットカフェでバイトしている関係でグッズ詳しいです。それに母譲りの猫好きで。でも下宿先はペット禁止で寂しくて」
じゃあ、紹介してもらおうかな。と先生が身を乗り出したとき、僕は付け加えた。
「それにしても友人さんの猫、先生に懐きまくっていますね。膝から降りたがらないなんて。よっぽど大好きですね」
先生の耳が赤くなり、頬を掻いた。
「あー。うん。そうなのかな。いつも素直だったら嬉しいんだが……」

先生と別れたあと、僕はこっそり思った。
「もしかして先生は、飼い主さんに片想い中なのかもしれない」
最後に見せた先生の表情、あれは片想い中の顔だ。ネットフリックスのアニメで散々見たから、恋している人間の表情は知っている。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ」とも言うし、まずは飼っている猫に好かれるのも一つの方法だろう。僕の紹介したグッズが役に立てばいいけど。

翌週、zoom授業に入室した僕は嬉しい悲鳴を上げた。
先生の書斎にはキャットタワーが建立され、頂上には黒猫が鎮座していたからだ。目撃できる姿は小さくなってしまったが、これでいつでも猫に会える。
チャット欄のトップには『猫に言及したら、期末テストで減点!』と先生のコメントが記載されていた。