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Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationship:
Characters:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2024-01-25
Words:
2,496
Chapters:
1/1
Kudos:
7
Bookmarks:
1
Hits:
131

詳細なレシピはWebにて公開中(嘘)

Summary:

ドラマ版準拠。
孔明先生お手製の美味しくない(マイルドな表現)お薬の話。劉備さんが子どもっぽくなってしまった……作中で熱があるせいにしておこう。

Work Text:

 わたくし、劉備は冬の川に落ちて風邪を引きました……少々考えなしだったと反省はしている。こうして、床に伏せる羽目になっているのも自らの行ないゆえであるのだし。
 もちろん反省はしている。しているが、後悔は一片もないので少し弁解をさせてほしい。年端もいかない子どもが足を滑らせて川に落ちそうになっていたのだ、助けない訳にいかないだろう。大人なら足のつく浅い川であったし、子どもは無事であるし、私は風邪こそ引いたがそれ以外はぴんぴんしているし、万事丸くおさまったとは言えないだろうか? いいところ探しは人生において大事だと、そう声を大にして言いたい。
「そも、幼子の一人さえ救えない者が、天下に安寧をもたらすことなどできようものか!」
 拳を握りしめて力説する私を見て、義弟たちが顔を見合わせている。また兄者の悪い癖がでた、という顔だ。振り回している自覚はあるが、こればかりは譲れないのだから仕方がない。
「兄者、この際だからはっきりさせてくれ。やったのは善行なのか、それとも運試しなのか」
「ほらほら、ちゃんと寝てないと熱が上がるぞ」
 布を絞る音がして、冷たいものが額の上にややぞんざいに置かれる。ひんやりとした感触が、熱のある身体に心地よい。くれぐれも寝台から出ないようにと言い残して義弟たちは出ていった。一体私をなんだと思っているのか。
「そのうち軍師殿がくるから、大人しくお説教されろよ」
 ……軍師殿、か。
 やはり、怒るだろうな。
 先生は、あれだ、「敵の弱点を見定め、味方の欠点を擬装するのですから、軍師の仕事なんてわるいところ探しですよ」とか言い出しかねないところがある。うう、何を言われるか備えておくべきか……やめよう、そういう予行演習は不毛だ。
 うつらうつらとしてきたせいか、とりとめのない考えが止まらない。布にふれると、熱が移って生ぬるい。水に浸けようかと身体を起こしたところで、聞き慣れた声がした。
「……我が君」
 起きていらっしゃいますか、と囁くような声が続く。
 天蓋から垂れた布を手で掻き分けると、気遣わしげな孔明の顔が覗いた。私を目にした途端、みるみる瞳が潤みはじめる。
「よくぞ、ご無事でいてくださいました……」
 心の臓が止まってもおかしくはなかったのですよ、と震えた声で諭されて、愚かな私はようやく己の無謀を悟った。
「先生に、無用の心配をかけさせてしまった」
「無用と思うなら、これきりにしてください」
 孔明の視線が刺さる。しかし、私はぼんやりと言葉を濁すにとどめた。今回のような場面に出くわしたら、自分はまた駆け出してしまうにきまっている。どう切り出したものかと黙りこくっていると、先に孔明が首をゆるく振った。
「つまらぬ嘘をつかせたいわけではないのです、誠実さこそ我が君の美徳ですから」
 孔明はそっと私の手を握ると、目を伏せる。
「どうか、一人で火中に飛び込むような真似をなさらないでください」
「今回は水中だ」
「我が君、揶揄からかわないでください」
 軽口がでるくらいお元気なら、必要なかったかもしれませんね。孔明はやんわりと微笑んで、小卓から何かを手にとった。
「薬を煎じたので、お持ちしたのですが」
 滋養強壮の効果がございます。うやうやしく差し出された手には盆があり、そこには椀がひとつ乗っている。それに目を留めた瞬間、劉備の脳裏にある言葉がよぎった。
 ――曰く。軍師殿の煎じる薬は、毒より恐ろしい。
 飲んだ者たちは口々に「不味いなんてもんじゃないぞ、あれは!」「ただ苦いだけの良薬に謝れ」「魂が抜けるかと思った」「あれを飲まなくて済むなら何でもする」と呻き声をあげてのたうち回り、挙げ句は「知ってるか、人間って生き返るためには一回死なないといけないんだぜ……」と言わしめる〈臥龍先生のお薬〉である。これほどの苦情クレームを受けておきながら、薬効は確かなので今までずっと目を瞑っていたのだ。つまり、野放しにしていたので自分の番が回ってきたのだった。
 どうぞ、と匙とともに手渡された椀の中身は普通の薬のようにみえる――およそ口にいれがたいナニカを想像していた私は拍子抜けした。
「先生のご厚意、ありがたく受け取ります」
 軽く微笑んでみせると、孔明が安心したように笑みを返す。おどろおどろしい見た目ではないし、難なく飲み干せそうな量だ。
 ――せっかく、孔明が作ってくれたのだし。
 その浮かれた気持ちが勘を鈍らせたのかどうか。何の気なしに一匙すくって口に含んだところで、私は己の判断を猛烈に後悔した。危うく吐き出しかけたところを、どうにか飲み下す。背を丸めて咳き込んでいると、孔明の手がおろおろと私の背中をさすりはじめた。
「大丈夫ですか、我が君!」
 正直なところ、言ってしまいたい。全然まったく大丈夫じゃないと。だが、それだけは口が裂けても言いたくなかったので、ただ無言で耐える。
「お身体がつらいのでしたら、わたくしが」
 匙で薬を飲ませようとする孔明を私はやんわり制した。やさしく「はい、あーん」してもらえば飲み込めるような、そんな生易しいものではないぞ、これは。ゆっくり息を吐ききったあと、精一杯の笑みを自分の顔に貼りつけてみせる。
「うん、大丈夫、少しむせただけだ。自分で、飲める、飲めます……」
 私は椀を両手にもち、覚悟を決めた。決心が揺らぐ前に、ぐっと一息に飲み干してみせる。
「このとおり薬も飲んだので、すぐ良くなるはずです。先生の煎じた薬は大変よく効くと評判ですから……もう先生の心配には及ばない」
「私だけではございません。皆、我が君の快癒を祈っております」
「そうか、皆にも心配をかけたな……孔明、私は少し休む」
「そうですか、おやすみなさいませ」
 孔明が退出するのをにこやかな顔で見送って、私は今度こそ臥牀ねどこに突っ伏した。薬を飲むだけのことが、これほどまでにつらいとは。身体中に嫌な汗をかいた。口直しに白湯を飲む気力すらない。
「本当に、眠ってしまうか……」
 ごろりと寝返りを打って、私は溜息をついた。緊張が解けたせいか、一気に睡魔がやってきたらしい。
 ああ、でも。
 本当に寝てしまってもいいんだろうか。
 じわじわと眠気に負けながら、私は誰ともなく呟いた。
「これは、夢に出る……」
   ――そうして、本当に夢をみた。
 光の明滅する不思議な空間で、軍師殿が若者に薬とおぼしき飲み物をすすめていた。にこやかに振る舞う臥龍先生を眺めながら、私は直感した。
 あれは、何か企んでいる顔だ。
 若者がぐっと薬を飲み干したところで、目が覚めた。身体は汗でじっとりとしているが、熱は引いたようだ。夢にみた若者は薬を飲んでどうなったのだろうか。先生の掌中で転がされるのは哀れだが、悪いようにはならないだろう。謀略にしては開けっ広げで、先生の眼差しは柔らかみを帯びていた。
 それに、なにより。
 このとおり、先生の薬はよく効くことだし。