Actions

Work Header

Rating:
Archive Warning:
Category:
Fandoms:
Characters:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2014-09-21
Words:
2,952
Chapters:
1/1
Kudos:
1
Hits:
54

Ghost

Summary:

初出pixiv2014年9月21日
ハルくんと貘さんのお話。

蜂名くんが珈琲フーフーしているのを見て(そうかー蜂名は猫舌なのかー(こいつにも子供っぽいとこがあるんだなー)と、ガクトがニコニコしながらほのぼの勘違いするお話、になる予定でしたが、展開がバレルロールしながら別方向へと飛び去ったので、ガクトは全く出てきません。

Notes:

(See the end of the work for notes.)

Work Text:

 

 

 

 人生というのは選択の総体で、つまりは失った可能性の連続だ。


 つい10分程前ルームサービスが置いていったコーヒーに、口をつける直前の、温度を確かめるために唇を尖らして息を吹きだし、恐る恐るゆっくりと啜りこむ心積もり、に、見せかけた、反射による一瞬の躊躇、を面白そうにチラリと一瞥すると、彼は笑った。
「毒なんて入ってやしないよ」
 流石に鋭いな。
「習い性だよ、気にしないで」
  更に言うなら、幼い頃からの傅役の教育の賜物であり、コーヒーに関しては外じゃないと心穏やかに飲むことができない、僕の〈家庭環境〉にもよる。
 ソファに座る僕の足元で、貘さんはスープ皿に半分気の抜けたコーラをあけて、ストローで飲んでいる────仰向けの状態で。
 仰向けなのはゲームをしているからで、仰向けで寝転がりながらテレビ画面を見上げ、コントローラーを腹に置きながらゲームしているのは、もう一回既にクリアしたゲームだからで、コーラの気が抜けているのは貘さんが炭酸が苦手だからだ。規則正しく、ある意味健康的に昼夜逆転生活を営む貘さんは、賭郎勝負やカジノに行かない時でもこうして夜を明かし、そんな夜行性の貘さんに付き合ううちに僕まですっかり夜型になってしまった。オフィスビル立ち並ぶ都心と言えど、窓の外はもう航空障害灯の赤い光ばかりだが、冬の午前四時半はまだまだ夜明けに、遠い。
「いーのかなぁー? 毒入りかもよ? 『その盃に冠の真珠を入れよ。汝が勝利の暁に、心ゆくまで干すがよい』」
「その時はその時。『これがお前の祝福か! Here, thou motherfucking, dodgy, damned Dane!』」
「───ッ!」
 黴臭い英語を現代語に即興で入れ替えた科白に、貘さんがコーラをブッと噴く。それ自体はたいしたことはなかったのだが、そのタイミングでコーラが気管に入った、らしい。ガフッと大きく噎せる。貘さん自身驚いたように目を見開いて、そんな自分にもウケながら咳きこむ。笑いながら全身で咳をしてまた笑い、と忙しい貘さんの背中をさすると、ようよう静まったらしく、口元の涎を拭いながら涙目で呟いた。
「………毒殺しようとしたら、危うく殺されかけた…てか、死んだ……」
「何言ってるのさ」
 チッチと人差し指を降った後、無言で貘さんは〈GAME OVER〉と表示された画面を指さした。
 ああ、なんだ、そんなこと。
「ウウウッ!化けてでてやるぅ~~」
「そこは『O all you host of heaven! O earth!』って言う方じゃないの? What else?」
「伊右衛門さま~~お恨みし~ま~す~~」
「そっち?!!」
 両手をだらりと垂らしてもたれかかってくる貘さんに咄嗟に反応しそこねて、二人して毛足の長い、分厚い絨毯の上に転がる。
「ッ!!ちょっとッ!」
「フッフッフッフ~~~」
 含み笑いを浮かべた貘さんの、無駄にいやらしく、軟体動物みたいに蠢く指が素早く僕の脇腹に触れる。そこは本気で弱い。くすぐったくて堪らなくて、しかし振りほどくには貘さんが虚弱すぎて、つまりは手加減できる余裕がなくて、逃げられない。
「~~~~!!」
 思わず触れたソファクッションをバフンと頭に引っかぶせ、貘さんが怯んだ隙に腋に手を突っ込んでくすぐり返す。
「ヒァッ!……ハルッ!!」
 ビクッと身体を突っ張らせて、身をよじる彼から早々に、手を離す。また噎せられても困るし、どこかで手打ちにせねば連鎖は止まらない。
 二人して床上で大の字になって、呼吸を整えること、暫し。どちらともなく零れた笑いは徐々に大きくなり、顔を見合わせ、肩を揺らしながら一頻り爆笑する。
「……大体がさぁ、復讐を現世の人間に頼むあたり、父親が根性悪いよ」
 ああ、そっちの話に戻るのか。
 自分が化けて出れるなら、呪い殺してやればいいのに、とブツブツ彼はこぼす。
「それも消える間際にね。……耳の中に毒を入れて殺すってのが、昔わかんなかったけど、割と今でもわかんない」
「あー、なんで口の中じゃないんだろうね」
 昼寝していた相手を殺すなら、耳に入れるより、口か鼻に入れる方が効率的だと思うのだけれど。
 ああでも、なんか今閃いた。コロンと転がる反動で起き上がり、彼は胡座をかいた。
「クローディアスの方にも最初から躊躇いがあったのかも」
「兄を殺すことに?」
「そう。知ってる?毒殺は────」
「──近親者が疑われる、だっけ?」
 なんだ、知ってんの、と唇を尖らせながらも、人差し指をビシッと立てる。
「じゃっその理由は?」
 立った人差し指に、人差し指で触れて、E.T.────
「毒を盛れるくらい近づけるから?」
 ───と、しようとしたら、なにを思ったのか貘さんは大きく飛びのいた。
「それと、運がよければ助かるから」
 床に座ったまま肩をいからせ、中国武術…とは言い難い、なんとも不思議な構えをする。
「?? それ別に毒殺に限らなくない?」
 向こうがその気なら、と僕も構えをとる。義和九陣、伏虎の構え。
「でも可能性としてはアリでしょ?」
 真剣な顔で、しかし瞳は笑いで輝いたまま、貘さんが手刀で切りこんでくる。
「そんなこと言ったらなんだってアリ、だよ」
 遅いそれを片手で軽くいなし、じり、と近づく。変な構えをしながら、同じ分だけ彼が退く。
「けど、過去と現在は既に結果でしかない。そうでしょ?」
 物語は主人公の王子を中心に展開するのだから、行間をどう読もうと勝手だ。全てを見通す神の視座を手に入れることなど出来やしない。より多くを把握できた者だけが、正しく判断することが出来る。
 故に王子は迷う。自分が見た父の亡霊は、悪魔が化けて唆そうとしているのではないか? 疑う己の心の隙に悪魔がつけこんでいるのではないか? だが、もし本当に父ならば? この欺瞞を自分は赦せるのか? 己の心に添うのか、目を背け沈黙するのか────生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ。
 腋下めがけ、手拳を叩きこむ───と見せかけて、僕は彼の横にあったゲーム機に飛びつき、パチリと電源を切った。当然セーブはしてない。ギャフン!わざとらしく言うと、バタリと貘さんは絨毯に倒れた。
「そうだね。それで云えば、人生は選択の総体で、失った可能性の連続だ」
 デンマークの王子だけじゃない。王位を簒奪する王弟も、夫の弟と再婚する王妃も宰相の姫も、誰もが等しく様々なものを失っていく。
 僕は確かに失いやすい、けど、世の中の人が失わないわけじゃない。
 貘さんがパチクリと、不思議そうに目をしばたたかせる。
「選択によって得るものは?」
 ────得るもの?
 僕が正しく判断しなければならないのは、僕の選択は賭郎の選択でもあるからだ。だから、僕の得たものは賭郎の取り分。
「………ハル?」
「別に、」
 貘さんからふいと目を逸らした途端、窓に映る自分の影とまっすぐに、目が合った。壁一面の大きなガラスの二重窓は、断熱性に優れて結露することなく、部屋の中を白く、透明に映している。
「どうもしないよ」
 そう言っているのに、床に肘をつくと、ニヤつきながら貘さんはにじり寄った。僕の膝の上に乗りあげて、無邪気な瞳で仰ぎ見る。よく晴れた日の秋空の、天頂をそのまま象嵌したかのような青が、僕をじっと見る。なんなんだ、と思った瞬間、コロンと頭を腹の上に預け、彼は寝そべった。
「なに?」
「いやぁ?別に」
「いいから、そういうの」
「だから、別にー」
 敏感な脇腹は器用によけて、腰に貘さんが手を回す。ソファにもたれながら、小さな頭の心地よい重さを感じていると、まるで猫かなにかに懐かれているような気分になった。ついつい指が髪を梳く。整髪料を含まないやわらかな猫っ毛は、指通りがとてもいい。
 闇に沈むビル群の中には白々と、僕たちが浮かんでいた。その上方には、引っかき傷のような細い月がある。
 朝日が登れば程なく空へと溶ける、月。
 Remember me. Remember me. と言って亡霊は、鶏の声とともに消える。わたしを忘れるな。わたしの恥辱を忘れるな。復讐を果たせ、と囁く。その言葉は、ハムレットにとってはある意味、呪いだ。忘れない。貴方のことを忘れない。Remember thee.と彼は返す。
 亡霊の言葉に耳を傾けなければ、父の復讐を果たそうとしなければ、ハムレットは恋人も母も自らの命も、失わなかったものを。


 そう思うから、そう思っているから、 Remember me. とは言いたくない。忘れてくれて、構わない。
 それでも、僕がここにいたこと、僕がそれを選んだこと、────僕が決めた選択の総体を、後の僕が気まぐれと一蹴するであろうこと、それが、少し、かなしいだけだ。

 

 

 

Notes:

迷える王子様