Work Text:
「じつは、単なる吊り橋効果だと思っていた」
先ほどまでうつらうつらと微睡んでいたはずの恋人は、戻ってきたときには身だしなみを整えてベッドに腰掛けていた。
「と、申しますと?」
ご所望だった水を渡して、私も隣に座る。彼は水を一口飲むと、そこにホワイトボードでもあるかのように空中を長い指で指し示す。
「時は戦時下、明日をも知れぬ身だ。艦というのは元からそうだが、乗組員には強固な絆が生まれやすい」
「閉鎖空間での人間関係は、ことさら密になりますからね」
私は軽く頷いてみせる。木星行きの船団でも心当たりのある話だった。
「そこに出撃要請が下る、これが吊り橋効果」
「はあ」
それは、はたして吊り橋効果だろうか。まがりなりにも命のやりとりを、そんな言葉で片付けていい類のものではないように思われるが。
「でも、ドキドキしたろう?」
ふいに、恋人が私の顔を覗き込む。ああ、だめだ。この、くらりとする感覚に流されてはいけない。私も自分の水を少し飲むと、少し悩んで口を開く。
「……戦場を駆ける赤い彗星はあまりに鮮やかで、美しいと言っても過言ではありませんでした」
「だろう、だろう」
我が意を得たりとばかりにうんうん頷くと、彼は話を続けた。
「そこで『大佐ァ、一生ついていきますッ!』……とまあ、そんな台詞のひとつも叫びたくなるわけさ」
シンパの一丁上がりだ。彼はゆっくり伸びをして、ベッドへと倒れ込んだ。
「ありふれた話だと思わないかね、中佐殿」
「よくある話でしょうね」
同意を示してみせたのに、彼は不服そうにしている。さらりと落ちた前髪を指で弄ぶと、彼はじっとこちらを見ていた。
「もう魔法は解けている頃だろうに」
「ご不満ですか?」
前髪を掻き分けて、額にキスをひとつ落とす。彼が、決まり悪げに身じろいだ。
「……いや、君が少しばかり不可解なだけさ」
「構いませんよ、不可解なままで」
こうして二人でいること以上に、重要なことなんてありませんからね。そうやって嘯いてみせると、彼の目が見開いた。つい、覗き込むように顔を近づけると、彼の腕がこちらへと伸びる。倒れ込むように恋人の腕のなかへおさまると、彼は屈託なく笑っていた。
「たしかにそうだよ、シャリア」
