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Language:
日本語
Collections:
日本語翻訳作品/ソーロキ
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Published:
2013-03-24
Words:
15,151
Chapters:
1/1
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21
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3,196

ロキを誘惑大作戦

Summary:

アべンジャーズ達は、好き勝手に暴れ回るロキにほとほと手を焼いていた。そこで、一計を案じる「ロキの欲求不満が解消すれば、奴も悪さをやめるんじゃないか?誰が最初にロキをベッドに連れ込めるか賭けるか?」果たして、この下らない作戦は上手くいくのか?そして、意外な勝者とは?

Notes:

A translation of "Operation: Seduce Loki" by LulaMadison
I translated the story with original writer: LulaMadison's permission.
I would like to say thank you for the permission to translate the story.

Work Text:

「奴を逃がしただと?」

 フューリーは金切り声を上げた。ソーがロキを探しに地球へと舞い戻って来たのだ。

「まさか、王家の人間を普通の囚人と同等に扱うとでも思っていたのか?」逆にソーが尋ねる。「ロキはアスガルドの王子だ。牢獄は、弟にとって安全ではなかろう」

「二日間で81人を殺して、地球にエイリアンの軍勢を呼び込んだ奴が囚人じゃないだと?」

「ロキは自室に軟禁され、宴への出席も禁じられていた」

「つまり何だ?アスガルドでは、夕飯抜きが犯罪者への処罰になるのか?」

「夕食は、一日で最も重要な食事だぞ」ソーが、もごもごと言う。

「腸で体を縛りつけられたり、蛇の毒を滴らせたりという、あれはどうした?」

「それは単に神話だけのものだ。我らアスガーディアンは、かような冷酷な行いはせん。そもそも、そなたは、あのような作り話を信じておるのか?」

「なら、八本足の馬の話は?」

ソーが唸り声を上げる。「その話はするな」

「ロキを見つけて捕縛しろ」フューリーが言った。「奴が馬鹿な真似をする前にだ!」

****************

 世界征服を企むロキが姿を隠し続ける筈がない。なので、ロキがロンドン・オリンピックの開会式に現れ、氷の一吹きでトーチの火を消し、聖火台点火を邪魔した時も、アべンジャーズは驚かなかった。

 人々が悲鳴を上げてスタジアムから逃げ出す間、ロキは運動競技の業績が知的な業績に比べ如何に過大評価をされているのか、彼が王となった暁には筋肉よりも頭脳を評価するだろうと喚き散らすように説教をしていたが、空に暗雲が立ちこめ始め、稲妻が空気を裂くのを見て僅かにビクッとした。そして、ソーがスタジアムの地面に降臨した。

「弟よ、こちらに降りて来い」ソーは、ひっくり返った赤い二階建てバスの上に陣取るロキに向かって言った。「話がある」

「私にはない!」ロキが叫ぶ。「私に挑むのは止せ。今日は、貴様の妨害に付き合う気分ではないのだ。これらモータル共に、私のパワーにひれ伏すことを教えねばならん!」

「選択の余地は無いようだな。弟よ、お前はこの世界に相応しくない。俺と一緒にアスガルドに帰るぞ」

「アスガルドに帰るだと?あのような冷酷な仕打ちを再び受けろと言うのか?」ロキが尋ねる。「あんたは、彼らが私に何をしたのか知っているのか?」

「母上が毎日夕食を運ばせていただろう」

「全部、オーディンの残り物のクズだ!」ロキは叫び、苛々と両手を揉みしだいた。

「いいから、降りて来い。弟よ、家に帰るぞ」

 ロキはフラストレーションに悲鳴を上げたが、ムジョルニアの一撃にノックダウンされ、バスの上から地面の瓦礫の山へと落っこちた。

 

 アイアンマンがスタジアムに着地した。直ぐにクインジェットが後に続き、ハッチを開けて傾斜台の端まで降りて来たスティーヴに、トニーが話しかけた。

「私達は必要なかったかも」ソーがロキを地面に叩きつけるのを眺める。「ロキは、以前ほど恐ろしく見えないな」

「前はテッサラクトの武器を持っていたから」スティーヴが答える。「セルヴィグが言うには、ロキはパワーの多くをそれから引き出していたそうだ」

「まあ、今でもうるさいけどね」と、トニーが返す。「さっさと口枷を嵌めて黙らすとするか?」

「あんたなんか、大っ嫌いだー!」

 二人の視線の先で、よろめきながら立ち上がったロキが甲高い声で叫ぶと、周りの空気がチカチカと光り、一気に百体ものロキの分身が現れた。 

「しまった!逃がすな!」

 トニーは大声で言い、ロキの分身達に向かって行ったが、分身達はパニックに陥っている群衆の中に逃げ込んだ。トニー、ソー、スティーヴが何とか分身を捕まえると、彼らは皆、手の中で煙と消えた。結局、アべンジャーズは、ロキが逃げおおせたことを認めねばならなかった。

****************

 半年もの間、アべンジャーズとロキは、同じイタチごっこを繰り返した。ロキが姿を現し、いつも通りに失敗する馬鹿げた計画と共に暴れ回り、ちょっぴり泣いて、そして消える。それは、殆ど笑いの領域だった。ただし、物的損害と、瓦礫を片づける為の請求書と、何故アべンジャーズの面々が地獄の猟犬に追われてストリートを走り回ったのかを説明する報告書が無ければの話だが。

 

「ロキがマンハッタンに現れた」スティーヴが言った。「スーツを着ろ」

「今度は、何をしているんだ?」トニーが尋ねる。「もし、奴がもう一度ゴーストバスターズを再現しているのなら、私は行かんぞ。この前は、アーマーからマシュマロを洗い落とすのに一週間もかかったんだからな」

「見たところ、自由の女神がブロードウェイを歩いているようだ。真っ直ぐ、我々に向かっている」

「クッソ!」トニーは大声で罵ってから、ソーに振り返った。「だから、言っただろう、弟の誕生日にDVDボックス・セットをプレゼントするのは、洒落にならないって!」

「弟の慰めになればと思ったのだ」ソーが言う。「ロキはプレゼントに大喜びしたのだが」

「作品名は?」

「『世界侵略: ロサンゼルス決戦』」

「他には?」

「『地球が静止する日』」ソーが続ける。「『クローバーフィード/HAKAISHA』」

「つまり街を攻撃する為の青地図を渡してやったってわけか?」

「弟はアクション映画が好きなのだ」

「もう、うんざりだ」トニーが答える。「今日の作戦から戻ったら、あんたは弟の超秘密の隠れ家を---奴が何と自称しているかは知らんが、とにかくそんな場所を探しに行け。DVDを取り返して来い」

****************

 ソーが自由の女神の首を刎(は)ねる映像は、ニュース番組を席巻した。幸運だったのは、魂を失い崩れ落ちた巨大な金属の体部分が、修復不能なまでに市長のオフィスを大破した時、市長本人は席を外していたことだった。

「広報の悪夢だ」アべンジャーズ・メンバーが集められたスターク・タワーの作戦室で、フューリーは叫んだ。「ヒーローとしての存在価値も、去年の我々が人々のケツを守って勝ち得た信頼も無かったことと思え。今回の出来事で、マスコミは俺達の首を狙っている」

「あの野獣を倒すには、あれしか方法がなかった」ソーが言う。「俺は間違っていない」

「野獣?野獣だと!?あれは自由の女神だ!」フューリーは激怒した。「それより、あんたは弟を躾ける方法を見つけろ!誰かが、あいつのケツに核をぶっ放せと言い出す前にな!」

「ロキを正気づかせようとはしている。しかし、耳を貸さんのだ」

「とにかく、何としてでもロキを捕まえて、アスガルドに連れ帰れ。私は、今すぐに大統領に電話をし、君らの仕出かしたことに頭を下げねばならん。いいか、奴を捕まえる案が出るまで、誰もこの部屋を出るな。繰り返すぞ、誰もだ!」

 フューリーはドアに向かい、叩きつけるように扉を閉めて出て行った。後に残されたメンバーは、気まずい沈黙の中で、互いに顔を見合わせた。

「女神の頭が地面にバウンドしたのは、超クールだったよな?」トニーが尋ねる。

「トニー、面白くないぞ」スティーヴはぴしゃりと言うと、ソーに顔を向けた。「ロキにも弱点がある筈だ。何か心当たりはないか?」

「クリプトナイト※を試してみよう」トニーが提案する。
(※スーパーマンを無力化する秘石)

「真剣に、黙れ」と、スティーヴ。

「弟にこれといった弱点はない」

「以前も言ったことだけど、また言うね」ブルースが静かに申し出た。「彼の弱点は、彼がイカレ頭だって事実そのものだよ」

「俺の弟は、イカレてなどいない」ソーが言った。「そのような言葉で侮辱するな」

「待てよ、ソー」トニーが間に入る。「ロキはポンチ野郎だ。ブルースは良いところを突いているかもしれん。奴の計画がいつも失敗に終わるのは、単純に奴がイカレ頭だからと違うのか?」

「弟は……情緒不安定なのだ」ソーが答える。「ロキは、ずっと不当な扱いを受けてきたと感じている。愛されていないとな」

「つまり、奴にはただハグが必要なだけだって言いたいのか?それじゃまるで、いつも注目を集めてチヤホヤされたがっている性悪女みたいだぞ」

「まあ、崇められたがってはいたな」ソーが認める。

「崇めるですって?」ナターシャが言う。「誰が、あんな奴を崇めるって言うのよ。あいつ、尻に刺さった棘みたにウザいわ」

「俺なら、あいつの尻にデカいのを刺してやれるぜ」と、クリントが応じる。「あいつが大人しく寝るんならな」

「もしかしたら、それが答えかもしれないわね。セックスは一番強力な武器だって言うし」

「君が立候補するか?」トニーが言う。

「冗談じゃないわよ!」

「プチ神様が怖いのかい?」トニーの問いに、ナターシャは目をグルリと回す仕草で答えた。「君の言ったことは的を射ているかもしれんよ。少なくとも、ロキの気を逸らせて捕まえられる程度には近付くことになるし、ひょっとしたら本当に、奴に必要なのはちょっとした如何わしい行為なのかもしれん。誰にも分らんがね」

「本気……じゃないよな?」スティーヴが訊いた。

「他にマシなアイディアが?」

「いや……無い」

「けどよ、奴のベッドの趣味なんて想像つくか?」クリントが言う。

「悲鳴は好きそうよね」と、ナターシャが答えた。

「悲鳴を上げるのは奴?それとも君?考えるだけでゾクッとする」と、再びトニー。

「そりゃ、奴が上げる方に決まってんだろ」クリントが応じる。「あいつは、メロドラマ好きのクソ野郎だ。凄ぇ芝居がかって泣くだろうよ」

「では、これを作戦にするか?『ロキを誘惑大作戦』だ」

「他にマシな作戦が浮かぶまでは仕方ねぇな」クリントが言う。「だが、最大の疑問は、そもそも奴がセックスを好きなのかってことだ。俺の見たところ、あいつ尻に栓でもしてそうだぜ」

 全員がソーに注目した。

「無論、俺の弟はセックスが好きだ。ちなみに、尻を栓で弄ぶ趣味はないと思うが」

「だったら、もう一つの疑問は、誰が作戦を実行するかってことだ」

 全員が、誰か立候補者はいないかと互いを見て待った。そして、ソーが名乗りを上げた。

「友よ!その役目、俺が進んで引き受けよう。ロキを誘惑し、褥(しとね)を共にしてみせようぞ。さすれば、あれを幸せにもしてやれよう。ロキは長年、俺からの愛と注目を熱望していた。俺はそれをロキに与え、そしてチームの役に立とう」

「何か、大事なことを忘れていないか?」スティーヴが尋ねても、ソーはきょとんとした。「ロキは君の弟だ」

「養子だ」ソーが答える。「それとも、そなたは自分の方が相応しいとでも?」

「その方が……キモくはないな」

「キモ?どういった意味の言葉だ?」

「意味は……不愉快だとか、気色が悪いだとか」

「弟と性的な関係を持とうという、この俺の申し出を気色悪いと言うのか?」

「うぅーむ……そうだ……」

「アスガルドでは、大して問題にならんぞ」

「ここ地球では、顰蹙(ひんしゅく)ものだ」

「お前達人間は、余りに心が狭い」ソーはスティーヴの体に視線を下ろし、真っ直ぐに股間を見た。「そして、小さい」

「何だと?」

「俺は弟をよく知っている。そなたでは弟を満足させられぬ。あれが求めるのは神だ」

「よし、それなら私の出番だ」トニーが言った。「この界隈で本物のセックス神といえば私しかいない。その証拠として、プレイガール三人、オスカー女優一人。それに、新体操アメリカ代表チームのメンバー達」

「弟は、そなたの求愛も受付けんだろう」

「賭けるか?」

「賭けたいのか?」

「ああ。この部屋にいる誰よりも先に、私こそがロキをベッドに連れ込む方に賭けるね」

「そなたが任務をしくじったら、如何にする?」

「私が負けたら……メイシーズ・デパートのショーウィンドーに5分間裸で立とう。しかし、私が勝ったら、あんたがそれをするんだ」

「20分間だ」ソーが言う。

「10分間」トニーが叩きつけるように言うと、ソーは彼の弟を思い起こさせる冷たく邪悪な笑みを浮かべた。

「よかろう、10分間だ」

「ロキのパンツの中にどんな神様が隠れているのか、この目で拝むのが楽しみだね」

「スターク、それは起こり得ぬ」ソーが笑う。「ここにいる誰も、弟の心を得られる者はおらん」

「な、な、ちょっと待てよ」クリントが割って入った。「俺達の内で誰かがトニーより先にロキを射止めれば、トニーが10分間ショーウィンドーでケツを晒すってわけか?」

「その通り。ただし、君らに望みはない」トニーが答える。「私は、今までに一度も誰かをベッドに誘って失敗したことがない」

「マキシムのカレンダー5月の彼女はどうなのよ?キャンセルを喰らったって聞いたけど?」

「スケジュールが合わなかった」

「ペッパーが言っていたのと違うわね」

「さあ?ペッパーが嘘を言ったのさ」

「トニーがショーウィンドーに裸でいるのを見たい。俺は賭けにのるぜ」クリントが言った。

「私も」と、ナターシャ。

「すまないが、レディ・ナターシャ。俺の弟は男、怪物、奇怪な生き物、何とでも進んで寝るのだが、女人だけは好まぬのだ」

 ナターシャは首を傾げ、男達の顔を一人ひとり眺めてから言った。「それならそれで、何だかホッとしたけど」

「ワレメ※はお嫌いってわけだ?」スタークが言った。
(※原文では映画作中ロキがナターシャを脅す際に使った言葉quim)

「そんな言葉を使うもんじゃない」スティーヴがぴしゃりと言う。「女性に対する冒涜だぞ。不愉快だ」

「あんたこそ、どうして意味を知っているんだ」

「僕は……インターネットで知った」

「ああ、私もさ」トニーがブルースに振り向く。「君はどうする?」

「僕は外してくれ。もう一人が出て来てしまうかもしれないから」

「僕はやる」と、スティーヴ。

「あんたが?結婚するまで純潔を守るタイプだと思っていたがね。キャプテン・純潔リング君」

「君も言った通り、チームの為だ」

 スティーヴの参加表明を聞いて、突然、トニーは賭けの分が少しだけ悪くなったように感じた。というのも、まともな人間なら誰だって、このハンサムなブロンドの超人兵士を拒みはしないだろうから。

****************

 ニューヨークに新たな氷河期が到来した。というか、より厳密に言えば、ニューヨーク公共図書館が氷に覆われていた。その屋根の上でロキが高笑いを響かせている。そして、5番街に打ち上げられた巨大タンカーの通路では、唸りを上げるオオカミの群れから、船員達が悲鳴からがら逃げ惑っていた。

「あの映画までプレゼントしたのか。聞いてないぞ」捕らわれている人々を逃がす為、図書館の扉を塞いでいる氷壁を粉砕しながら、スタークが言う。

「別のボックス・セットに入っていたのだ」ハンマーを振って氷を砕き、ソーが答える。

「セット内容は?」

「『デイ・アフター・トゥモロー』……『2012』『Godzilla』『インディペンデンス・デイ』」

「もし、またエイリアンの侵略があったら、全部あんたのせいだ」

 ようやくソーが氷壁を崩し終えると、人々がキャーキャー叫びながら出口から溢れ出て来た。

「言っただろう、弟はアクション映画が好きなのだ」

「ソー、それらは全部、世界の終末系映画だ」悲鳴を上げる人々を外に誘導しながら指摘する。「あんたは、実質ロキに黙示録マニュアルを渡していたんだよ」

「スターク、人々の安全を頼む」ムルジョニアを旋回させる。「俺は、弟を誘惑しに行く」

「あ、ズルいぞ!」トニーが叫んだが、ソーは構わず屋根の上へと飛んで行った。

 

「オーディンソン!」目の前にソーが着地すると同時に、ロキは憎々しげに言った。「貴様の贈り物には感謝せねばなるまい。あれらは、非常に啓蒙的であった。しかしながら、植物が他の植物のためにモータル共を殺害するという駄作については、別のDVDと交換したと認めようぞ」

「ロキ、今すぐに、この狂気を終わりにせねばならん」ソーがロキに近付く。「人々は怯え、お前のゲームにうんざりしている」

「モータル共は私に跪くだろう……結局のところな」

「弟よ、人々は屈せぬ」

「ならば、死あるのみ」

 ロキが歯を剝いて唸り、図書館の屋根を手で叩くと、屋根を覆っていた氷が剥がれ、巨大な鋭い棘となってソーに襲いかかった。

 ソーは飛んで来た最初の氷の棘をムジョルニアで叩き割ったが、直ぐにまた幾つもの氷の棘が立ち上がり、剃刀のように鋭い氷面が彼を取り巻いた。急激に伸びた氷の棘が、防ぎきれなかったソーの上腕を抉(えぐ)る。ソーはムジョルニアを旋回させ上空へと脱出すると、ロキに向かって突進し地面に叩きのめした。仰向けに倒れた弟の胸にムジョルニアを置き、それから、その体に跨った。

「以前と同じ手口じゃないか、兄上。がっかりだな」ロキが意地悪く言う。「あんたの愚鈍な頭では、私を拘束するもっとマシな方法は思いつかんのか?」

「弟よ」ソーの声が轟く。「俺は、今すぐにお前と性交せねばならん!」

「はぁ!?」

 ロキの目がまん丸になり、ハンマーの重みと肩に食い込むソーの両手から逃れようとあがく。

「ロキ、俺はここでお前を抱くつもりだ」そう言い、大きな片手でロキの頬を包みながら、溢れた涙が親指を濡らすのを不思議に思った。

「嫌だ!」ロキは怒鳴り、ソーを押しのけようと試みる。「こんな方法で、私を罰しようとするなんて!」

「違う、ロキ。無理強いしようというのではない」ソーが笑って言う。「お前を俺のものにしたい」

「どけ!この怪物め!」

「俺のものになりたくないのか?」ちょっと傷つく。「俺を愛しているのだろう?」

「大っ嫌いだ!このような汚辱を受ける前に、貴様を殺しておけば良かった!」

「ロキ……そんな、酷いぞ……」

「腐り死ね!汚らわしい好色魔!さあ、離せ!」

「本当に俺と寝たくないのか?」

「何だって、あんたと寝たくなるんだ?」逆にロキが訊き返した。「あんたは、私が今まで遭遇した中でも最も不快な生き物だ。ちなみに、私はトロール共とも寝たことがある」

「トロール共と寝ただと!?」ソーの口が、驚きにあんぐりと開く。

「そうとも、兄上」と、畳掛ける。「奴らは、オーディンが我々に教え込んだ通りの実に嫌らしい生き物だったが、それでも、あんたに触れられるくらいなら、トロールの血族全てと寝た方がマシだ!」

 ソーは上体を起こし溜息をついた。本当にそこまで嫌われているのか?絶対に寝たくないと思う程、自分の弟から憎まれているのか?屈み込み、胸からムジョルニアをどかしてやる。そして、ロキがよろめくようにして立ち上がるのを見つめた。

「弟よ、お前は本当に俺を汚らわしいと思うのか?」ロキを見上げて尋ねた。

 一瞬、ソーはロキの目に涙の粒が光るのを見た。しかし、次の瞬間、顔面に平手打ちを喰らい、尻もちをついた。

 ロキがソーを覗き込んで言った。「二度と私に触れるな」

 無力感に打ちひしがれたソーを独り屋根の上に残し、ロキは魔法で姿を消した。ソーは、もう二度と挑もうとは思わなかった。他のメンバーが、自分よりマシに任務を成功させることを願った。メイシーズが何なのかは、未だによく分らなかった。でも、そこで裸になるのは嫌だな……と思った。

****************

「知っての通り、これが世界の終焉、とっても晴れやかな気分~♪」と、トニーは歌った。

「黙れ、トニー」キャップが叫ぶ。「そいつを倒すことに集中しろ!」

「そいつじゃない、これの名前はガッヅィーラだ」

「名前なんかどうでもいい!攻撃を休めるな!」

 キャップは、その巨大な緑の……えーと、やっぱり呼び名は必要かな……そのディラノサウルス……っぽい生き物に踏みつぶされる前に、路上から市民達を避難させようとしていた。

「ホークアイ、ウィドウ。ロキを追跡できるか?」

「遠くには行っていない筈だ」高層ビル群の間でクインジェットを操縦しながら、クリントが応答する。

「あれは何?」ナターシャは、近くのビルの屋上で陽に反射する何かに気付いた。「ロキかしら?」

「ヤギ頭野郎だ!捕まえるぞ」

 彼らはクインジェットを旋回させ、クライスター・ビルに向かった。そのビルの屋上、平らになった一角にロキは立ち、満面に狂人めいた笑みを浮かべながらガッヅィーラを操り、犬がするように後ろからバスを犯させていた。

「ロキ」ナターシャがマイク越しに呼び掛ける。「どこかは知らないけど、ガッヅィーラを元いた場所に戻しなさい」

「正しい発音はゴジラだ!無知な女め!」

 クインジェットの鼻面に飛び移ろうとしたロキだったが、そこで突然に、以前ハルクがチタウリの怪物魚の口に飛びついたあれは、実際よりも簡単に見せていたのだと悟った。ロキの両手は、一瞬だけクインジェットの滑らかな表面を引っ掻き、それから、空を切って路上へと急落下した。

「死んだかな?」クリントが尋ねた。

「だといいわね」と、ナターシャは言った。

『何が起こった?』通信越しにトニーの声がした。『ガッヅィーラが少しぎこちなくなったぞ』

「ロキがビルから落ちたわ。地面に降りて結果を確認する」

「既に着陸態勢に入っている」クリントはレキシントン大通りに向かい、スクラップになった車の間にクインジェットを着陸させた。

「良い着陸だったわ」

「どうも」 

 クリントは弓を掴んでナターシャと共に船尾へ行き、クインジェットのハッチを開け外に出た。そして、車を盾に安全を確保しながら前へと進む。その間、上空では、アイアンマンのリパルサービームに撃たれたゴジラが唸り声を上げながら、まるでテレビのチャンネルを切り替えるかのように消えたり現れたりしていた。

「行くわよ」

 ナターシャとクリントは、ロキが落ちたビルの角まで辿り着いた。角を曲がると、そこにルーフ・トップをへこませドアに細く血の筋をつたわせた車を発見したが、ロキの姿は何処にも見えなかった。

「このテの連中って、どうすればくたばるの?千フィート近く上空から落下しておいて、たったのかすり傷程度で歩いて逃げたっての?」

「捜すぞ」

「復讐の時きたるってわけね?」

「いや。口説く」

「ちょっと!」ナターシャが叫ぶ。「……本気でやるつもり?」

「トニー、裸、ショーウィンドー」

「了解。血の跡を追うわよ」

 

 歩道に数歩毎に残された血痕を辿ってロキの逃げた方向を追い、彼らはすぐにブライアント・パークでロキを発見した。殆ど体を折り曲げるようにしてガードレールに凭れかかったロキは、胸に手を当て、明らかに苦痛の最中にいるようだった。

「オーケー。かすり傷ではすまなかったようね」そう言ったナターシャは、ロキが何ごとか呟いて胸を撫で、それから真っ直ぐに立ち上がるのを目撃した。「で、またかすり傷程度に戻ったわけね」

 二人は頭上を飛ぶアイアンマンを見上げた。次に、クリントは一番近くの花壇から花を引き抜き、素早く矢の軸に装着した。ナターシャが片眉を上げてクリントを見ると、彼は肩を竦め、弓に矢をつがった。それと同じくして、ロキが草上に立ち上がる。

 クリントは矢を放ち、矢が花をなびかせて公園を突っ切っていくのを見守った。過去のどんな時でも、奴は俺の放った矢を物凄いドヤ顔で掴んでみせたものさ----と、自嘲を浮かべる。しかし、今回は何かが違った。ロキは空を見上げ、近付く矢に気付いていない。

「おい、こっち向け、こっち!」クリントは小声で言い、それから上を見て、空にたなびく緑色のスモークに気付いた、次の瞬間、ぎゃあ!という叫び声にハッとして視線を戻すと、尻に矢を突き刺したロキが草上でのたうっている。

「畜っ生!」

「愚か者め!」ロキが叫び、憤慨に声を震わせて尻から矢を引っこ抜く。「尻に矢ごときで、私に勝てると思うのか。神を倒すには不足と知れ」

 ロキは掌を上げ燃える緑の玉を創り出すと、クリントとナターシャに向けて放ち、二人を地面に叩きつけた。何体もの分身に別れたロキがバラバラの方向に逃げ出す間、仰向けにひっくり返されたクリントは暫く眩暈を感じ、それから、空に漂う緑色のスモークが何だったのか、何故ロキが気を逸らされていたのかを理解した。スタークがジェット噴射で『I ♥ Loki』と空中に描いていたのだ。

「あの野郎、ブッ殺す」クリントは言った。

 

 スティーヴとハルクが負傷したロキを捕獲なり保護なりする為にクライスタービルへ続く道を下っていると、前方に当の神を見つけた。

 まだ充分に遠くまで来ていないと分っていたが、ロキは長時間に及ぶ魔法の使用と、落下時に負った怪我のせいで少し眩暈を感じていた。車に手を付いて体を支え、更に分身を増やそうとパワーを掻き集めた。しかし、背後から巨大な両手に掴まれ、気付いた時には、近くのレストランの窓にブン投げられていた。

「そこまでしなくても」スティーヴが言うと、ハルクはその返答として鼻息を吐き肩を怒らせた。「だってほら、これで彼をディナーに招待するのが難しくなったぞ。君のせいで酷く不機嫌になっているだろうからな」

 

 テーブルの残骸を押しのけて、ロキはよろよろと立ち上がった。咳と共に口に溜まった血を吐き出し、最も酷い怪我を治すために残りの魔法を引き出したが、それ以上は消耗の激しさから無理だと悟った。レストランに入って来たスティーヴを睨みつけ、分身か炎の玉を創り出そうとしたものの、やはり微かな火花を呼び出せただけだった。

「ええーと……ここのステーキはとても美味しいそうだよ」スティーヴは、破壊を免れたテーブルの上からメニューカードを手にした。「デザートも良さそうだね」

 ロキが追いつめられた山猫の優美さと用心深さで後ずさる。

「デザートは好きかい?」スティーヴが尋ねる。「お勧めは、ココナッツ・クリュレ・パイだな。もし良かったら、今夜一緒に食べないかい?」

「下らぬ会話で私の気を逸らそうなど片腹痛いわ」

「君の気を逸らそうとしているんじゃない。君をディナーに誘っているのさ」

「神が取るに足らぬモータルと夕食を共にするとでも?」

「ソーは、その取るに足らぬモータルといつも一緒に夕食を食べる。彼は楽しんでいるようだが」

「あの兄なら腐れた死体の群れとでも楽しむだろうさ。驚きには当たらんね」

 スティーヴはテーブルの上にシールドを置き、害を加える気はないという証拠に両手を広げながら、神経質に後ずさるロキににじり寄り始めた。

「こういうのはどうかな?」と、スティーヴが誘いかける。「ギャラリーに寄って、それからディナーというのは?」

「私がギャラリーに行くとしたら、それは、そこを完膚なきまでに破壊する時だ」

「芸術鑑賞の気分じゃないなら、セントラル・パークでピクニックは?」互いの間が、あとほんの一、二歩になるまでにじり寄る。「街に夕日が沈むのを眺めて、それから、夜が僕らをどこへ誘うのか確かめよう」

 ロキは小首を傾げ、ニヤーと笑った。そして、スティーヴの顔面を裏拳で打ち据えレストランの端まで吹っ飛ばした。

「神を倒せると信じるとは愚かなものよ」

 

「フェアじゃない」トニーがクリントに愚痴った。「全員で私を妨害するんだから。まだ一番の得意技を披露するチャンスもないじゃないか」

「そなたが弟を誘惑したいなら、俺は止めん」ソーが言った。「もう関わりたくない」

「よし、一抜けだな」トニーがハルクに振り向く。「君は最初から降りているから、残るはホークアイ、僕、キャップだけだ。それはそうと、キャップの奴、どこに行った?」

 ハルクが片手を上げてレストランの割れた窓を指差したのと同時に、中から衝突音がし、次いでロキがよろめき出てきた。

「貴様らも打ち負かされに来たか」そうは言ったが、見たところかなりボロボロだ。

 クリントが何かを言おうと進み出たが、トニーが射手の胸の前に手を出して遮る。

「君の出番は終わりだよ、キューピッド君。今度は私の番だ」

「ふざけんなっ」

 ロキは、ヒーローと呼ばれる輩が内輪もめをし、その横でハルクが呆れて目を回す様子に興味をそそられた。しかし突然、ハルクが前屈みになり、ロキの腰を引っ掴むと、そのまま肩に担ぎ上げた。

「ちょっ、何やってるんだ!?」トニーが叫ぶ。

「降ろせ!馬鹿者!」盛大に足をバタつかせて喚いたが、ロキの両太股をがっちりと固定したハルクの片腕はビクともしない。

「おまえらのケンカは、たいくつ」そう言い、ハルクはロキの背中を優しく撫でた。「ハルク、ちっちゃい角男を、ゆうわくする」

「何ィ!?」ロキは叫んだ。

 しかし、誰もが答える暇もなく、ハルクは道からジャンプして視界の彼方へと消えて行った。

 

 ハルクが古びた倉庫の屋根を突き破ると、鳩達は怯え、着地した二人の上に屋根の半分が崩れ落ちた。

 ロキは体の上の梁と瓦礫を押しのけてから、弾けたように立ち上り、ささっとズボンの埃を掃った。同時に、ハルクも立ち上がり始める。

「貴様!近寄るな!」後ろに飛び退いて叫ぶ。「もう二度と手荒な真似はさせんぞ!」

「ハルク、前にチンケな神をスマッシュした。チンケな神もどって来た。チンケな神、今はそんなにチンケじゃない」

「私はチンケではない!貴様、少しでも近付いたら覚悟しろ!」そう言いつつ、もっと後ろに飛び退く。

「そんなにチンケじゃない神、ハルクからのハグがひつよう」

「ちょっと何言っ----」と言いかけたところで突然、ハルクの両腕に引っ張られてぎゅっと抱きすくめられ、気が付けば、思いがけず毛深い胸に顔を埋めていた。

 暫くは、ハルクを押しのけようと突っ張ったり、きつい腕の締め付けに見悶えたりと足掻いてみせたが、すぐにどうにもならないと思い知った。それでも、可能な限り首を捩って廃墟と化した倉庫内を見渡し、瓦礫の頂上に分身を一体、呼び出しおおせた。

「何たる見るに堪えない生き物だ」分身が口を開く。「哀れな出来損ないめ、自分の姿を見るがよい」

 ハルクはロキの腰から片腕を上げると、優しくロキの後頭部を撫で、あやすような仕草で髪を梳いた。

「ハルク、かんたんにひっかからない。ハルク、ソーとちがう。」

 ロキの喉から思わず笑いが漏れる。「確かに。しかし、ソーの語ったところによると、お前はソーをも吹っ飛ばしたらしいな。これは、聞いていて愉快だった」

 ロキは分身を消し、この……攻撃を防ぐ手段はあまり無いと悟った。じっと抱擁に身を任せ、なるべく早く終わることを願っていたが、ゆっくりと左右に体を揺すられながら、ハルクがハミングまでし始めるのを聞いている内に、体から恐怖が抜けていくのを感じた。これではまるで、この獣は、今回本当に私を傷つける意図がないと見えるぞ。怪物の胸に頬が擦れる。ああ、何と柔らかいのだろう。

「本当に私を痛めつけないか?」

「しない。そんなにチンケじゃない神、ハルクのスペシャル・ハグがひつよう。きぶん、よくなる」

「何故に?私はもう充分に良い」ロキは嘘をついた。「だから離してもいいぞ」

 ハルクが上体を屈め、奇妙な仕草で----ロキが全くもって気持ち……良いと認めざるを得ない仕草で----ロキの頭の天辺にキスを落し、彼を解放した。逃げ出したい衝動とは裏腹に、ロキはあえてその場に立ち、そう何度も簡単に脅かされはしないぞと証明してみせた。

 ハルクは片手を上げてロキの側頭部を優しく撫で下ろし、指を這わせ、顎を包んだ。「ハルク、そんなにチンケじゃない神の尻を、スマッシュしたい」

 一瞬、ロキはハルクを睨みつけたが、次に、緑色の見事な肉体からその股間へと視線を落した。巨人のズボンのウェストバンドをグイっと引っ張って中を覗き込み、その肉体の全てが“バランスに見合っている”ことを確認した。

「うむ」ロキは顔を上げて言った。「させてやっても良いかもしれんな」

 

****************

 

 ブルースは早朝に目を覚ました。窓から射し込む朝日に目を細める。 
ここはロキの超秘密の隠れ家だったが、実際に見てみれば、まるで近代的な高級ホテルの最上階にしつらえられた、どちらかと言えば特徴のないスィートルームのようだった。

 ロキは顔をあちらに向け丸くなって眠っていたが、顔にかかった真っ黒な髪の寝乱れ方が特殊な出来事を物語っていた。ロキの背中と腕には痣と引っかき傷が散らばっている。古い傷に新しい傷。ブルースは、その傷の内の一体いくつが、自分が神と対決した際につけた傷だろうかと困惑した。

 急にたまらなくロキに触れたくなり、ブルースはロキの肩に手を置き、それから脇腹へと手を這わせた。すると、ブルースの見つめる中、ロキの口角に微笑みが踊り、柔らかな呻き声が漏れ、触られた感触に反応した背が猫のようにしなった。

 ロキはブルースの側へ寝返りを打ち、目を開き、そして、顔をしかめた。

「お前は、その姿だと大幅に魅力が減るな」そう言ってブルースを値踏みし、どこもかしこも完全に、その小さくなった体の“バランスに見合っている”ことを確認する。「もう一匹の方はどうした?あれを戻せ。もう一度、あれと性交がしたい。お前では駄目だ」

「出せと言われて出せるもんじゃない」

 ロキが片眉を上げる。「私は神だぞ。したいようにする。そして、お前とはしたくない」

「ハルクを出すわけにはいかない」

「あの獣を出せ。今すぐにだ!さもなければ、お前を素っ裸のまま窓から投げ捨てやる」

 ブルースは、ロキの侮辱と脅しにイラっとして怒りがこみ上げてくるのを感じながらも、突然に、そういえば最近はご無沙汰だったなぁと思い当たった。もう、どうでもいいや。だってセックスは気持ち良かったし----このまま変身しちゃうか。

 ハルクがロキの顔から僅かに一インチ横の枕に拳を沈め、唸った。

 ロキは笑い声を上げ、興奮に瞳を輝かせて言った。「そうこなくては!」

 

 

「スターク・タワーに戻らなくちゃ」ズボンの残骸を穿きながら、ブルースは言った。有難いことに、尻ポケットに財布が残っていた。これで少なくとも上半身裸で街を歩かずに、タクシーを拾って帰れる。

「よっぽど大事な用件があるのだろうね」等身大の鏡の前に立ち、どこもかしこも一インチたりとも、全てが完璧に見えるよう自分の姿を確認しながら、ロキが応じる。「何かをスマッシュする用件が。だろう?」

「物を壊すのだけが僕の仕事じゃない。僕は科学者だ」

「モータル共の科学は面白い。物事を理解するということに関して、お前達は全くもって後進的だ」と、小馬鹿にして言う。

「僕をまた怒らせようとしているな?」

 ちょっとの間、髪を梳かす櫛を止め、ロキは鏡越しのブルースに片眉を上げてみせた。「事実を聞いて腹を立てるのか?」

「真実は君を傷つけるかな?」

「ほう、お前のような卑しき者が、神にどのような真実を語れると?」

「おい、僕が卑しいだって?」緑色の肌が背中に粟立つのを感じ始める。「少なくとも、賭けの対象にでもならなきゃ寝る相手もいなかったのは僕じゃない!」

「何だと?」ロキが怒りに振り向く。ブルースは情報を漏らしてしまったことを一気に後悔した。「言え。今のはどういう意味だ?言わねば、あの獣でさえ、命を危うく感じるような暗い世界に送ってやるぞ」

「賭けだったんだ。誰が最初に君をベッドに誘えるかっていう」

「賭けだっただと?」ロキが怒鳴る。「貴様は賭けの為に私と寝たのか!」

「その……ある意味では……い、いや、必ずしもそうじゃないよ、うん。今、僕を殺そうとしてる?きっともう一人の方ががっかりするよ?」

「厳密には、何故に私がそのような賭けの対象となった?」ロキの目が狭まる。

「僕らは、君の欲求不満が晴れれば、少しは問題を起こさなくなるかもって考えたんだよ」

 ロキは暫くブルースを睨みつけていたが、それから、殆ど体を二つ折りにして大声で笑い出し、ようやく笑いが収まると涙を拭いて言った。「許せよ。しかし、これはどうしたことか。こんなに可笑しな話は久しぶりに聞いた」

「じゃ、僕を殺すのをやめる?」ブルースが尋ねた。

「ここまで私を楽しませてくれたのに、どうして殺せよう?」ロキが答える。「私を見ろ。これ程に素晴らしい存在が、どこでも、いつでも好きな時に、セックスに困るなどと、お前達は本気で考えたのか?」

「そこまで本気で考えたわけでは……」

「哀れな生き物め!」と一喝する。「よいか、私は先週の殆どをヴァナヘイムの乱交パーティーで過した。つい昨日は、ムスペルヘイムの火山で炎の悪魔と歓を尽くしたし、一昨日はニーズヘッグと長時間激しく交わったぞ」

「ニーズヘッグ?何だい、ニーズヘッグって?」

「アルフヘイムに住む雄ドラゴンだ。きっとお前達は知らぬのであろうな。彼は衛生的には酷いものだが、非常に大胆でな。欠点を補って余りある」

 ブルースは立ち尽くし、こんな状況に自分を巻き込んでくれたトニーを、どうやってじっくりと苦しませながら殺してやろうかと考えた。

「それで、賭けに負けた者はどうなるのだ?言ってみろ、道化師よ」

「トニーが店のショーウィンドーに10分間裸で立つ」

 ロキは再び笑い出した。「それは、それは。絶対に見逃せんな。私と寝たことに加えて、お前は勝利者宣言をせねばなるまい?どうするつもりだ?」

 

****************

 

「セキュリティ警報!」コーヒーポットを手にしたまま、トニーは叫んだ。ブルースがスターク・タワーのキッチンに入って来たのだ……ロキに伴われて。

「落ちつきたまえ、スターク。良い子だから」ロキがけろりとして言う。「心配せずとも、私に攻撃の意図は無い」

「こいつ、何しに来たんだ?」トニーが尋ねる。

「大丈夫だよ」ブルースが答え、ロキに顔を向ける。「大人しくするよね?スウィート・ハート」

「勿論だ」ロキが甘い声を出す。「しかし、それではまるで私が何かするみたいではないか?私の可愛い小さな花よ」

 ブルースが何気ない仕草でロキの肩に腕を回すと、ロキは優しい微笑みで応え、自分からも相手の腰に腕を回して、ブルースのジーンズの後ろポケットに手を差し入れた。トニーは顔を歪め、目前で繰り広げられる病的なイチャつきから守ってくれる盾になれと願いながら、コーヒーポットを胸の前で握りしめる。

「コーヒーかお茶のどっち?」と、ブルース。

「茶をいただこうか、愛しいお前」と、ロキ。

「僕が用意するから、そこに座っておいで」ブルースはロキに椅子を勧めてからカップボードに向かい、日の丸がついたパックを取り出して言った。「これでもいいかな?アールグレイかカモミールがあったと思ったんだけど、スティーヴが飲んじゃったな」

「結構だよ。緑茶は好きだ」ロキは返事をしてから、トニーを見やって微笑んだ。「私は、男も緑色が好みでね」

 ケトルを火にかけ、二人分のカップにティーバッグを用意したブルースが、その場に立ち尽くしたままのトニーに振り向いて微笑む。

「そうそう、色といえば、お前が緑なら、私の元々の色は青だから」ロキが言い出す。「子供が産まれたら何色だろうね?」

「アクアマリン?」

「繊細なティール・グリーンの色合いはどうだ?ティール・グリーンの子は、まだ持ったことがない。きっと可愛いだろうねぇ?」

「ティール・グリーンは、僕の好きな色だ」

 トニーのコーヒーポットがコンピューターの上に落ちて割れた。

「ブルース、ちょっと外で話せるかな?」

「いいよ」

 ブルースはトニーに従ったが、ロキの横で一旦立ち止まり、優しく微笑んで肩に触れてからキッチンを後にした。

 トニーは後ろ手に勢いよくドアを閉めて言った。「奴をここに連れて来るなんて、どういうつもりだ!?」

「君の望んだことだと思ったけど?」ブルースが答える。「彼をハグしてあげたら、上手くいったよ。良く知れば、ロキは悪い奴じゃない」

「なら、今や奴は善人か?たった一回のハグで急に正気づいたって?」

「そりゃあ、ちょっとだけハグ以上のことも……」

 トニーが怯む。「よしてくれ。まさか、本当にやっちゃったなんてことは……」

「トニー……」顔を近付け、声を低くする。「あの実験事故から、僕はセックスが出来なくなっていたんだ……昨夜を除いて」

 トニーの口があんぐりと開く。「全く?」

「心拍数が上がると……ハルクが出るから」静かに言う。

「ああ……。じゃあ、昨夜は酷いことになったんだ?」

「メチャクチャだ」

 一瞬、トニーは口をつぐんだが、それから好奇心に負けた。「どんな風に?」

「戦うのと大差ないさ。悲鳴がいっぱいに、罵り言葉、髪の引っ張り合い」ブルースが続ける。「実際、君も驚いただろうな。彼……すごく体が柔らかいんだ」

「うぁ……もう充分だ」トニーは胃がゾワっとするのを感じた。「畜生、コーヒーめ。私は研究室に戻るとするよ」

「それはそうと、メイシーズに電話したら?」廊下を進むトニーに、ブルースが言った。「脱毛ワックスも用意した方がいいんじゃない?」

 

****************

 

『本日、西34ストリートで異様な光景が展開されました。アイアンマンとして知られるトニー・スタークが、メイシーズ・デパートのショーウィンドーに10分間、全裸のまま現われました。その後、スタークは公衆猥褻罪の疑いで警察に逮捕されましたが、NY市長の介入により告発を免れ釈放された模様です。続報が入り次第、またお伝えいたします』

 トニーはテレビを消し、盛大な溜息をついた。こんな馬鹿な賭けをしなければ良かったと思ったが、勿論、その後悔を他のメンバーに悟らせるつもりはなかった。

「何枚か別の写真をツィッターで見つけたぜ」ラップトップから顔を上げたクリントは、真っ赤な顔で素っ裸になったトニーの写真が全員に見えるよう画面を向けた。

「いい加減にしろ、クリント」トニーが言った。「人の噂も75日だ。その内、誰も興味を持たなくなる」

「僕はちょっと興味があるな」と、スティーヴ。

「君も“リトル・スターク”と裸の付き合いがしたいのか?」トニーが尋ねる。「言ってくれれば良かったのに」

「それよりも、君が全世界の前で恥しがっていたって部分に興味があるね」

「へえ?私が恥しがっていたって?」

「この写真の中じゃそう見えるぜ」クリントが再びラップトップの画面を見せる。

「言わせてもらうと、私はチームの為に行動したし、その結果、全てが上手くいった。ロキは矯正され、スーパー・ヴィランのお遊びは終わり。ブルースは得るものを得てハッピー。私の大物ぶりを世界中が目撃、つまるところ、私はモテモテ」

「どこが大物なのよ」と、ナターシャ。

「黙りたまえ。君にもチャンスがあったのに、自分で駄目にしたんじゃないか」

「チャンスですって?」ナターシャが言い返す。「ごめんなさい。あんたのクソ野郎っぷりに気を取られて全然気付かなかったわ」

 トニーは、わざと息を飲んだふりをして言った。「うぁっ、完璧に傷ついた」

 その時、ドシンと床が揺れた。続いて何度も。

 トニーが腕組を解いて言う。「何だ、この揺れは!?」
 
「えっと、皆……」部屋の反対側、窓に向いて立っていたスティーヴが口を開いた。「スーツを着た方がいいみたいだ」

 全員が窓に寄って、そして同時に呻いてからエレベーターに駆け込んだ。窓の外では、エンパイア・ステート・ビルの頂上に立ったキングコングが胸をドラミングし、その逞しい肩に腰かけたロキがスターク・タワーに向かって投げキッスを送っていた。

END