Work Text:
アスカが立ち上がった。そしてレイがこちらに歩いてくる
「誰だった?」
「友達。昔から—」
「知らない。知りたくないわよ。」
「そうか。」
レイはその場に立ったまま、渚が遠ざかっていく背中を見ていた。それからアスカの方へ視線を向ける。
「アスカ。」
いつもの抑揚のない声。
「…っ、何?」
アスカはまだワンダースワンの画面から目を離さない。
「…怒ってるの?」
「ちっ、別に。行くわよ。」
レイは少しだけアスカを見つめてから、一歩近づいた。アスカも何も言わず、レイに手を取らせる。
「…今、どこに行くの?」 指を絡めながら、レイが静かに尋ねる。
「家に帰る。」
アスカは横目でレイを見た。
「何その顔。キモイ。」
レイは首をかしげた。
「…顔?」
「別に。」
二人は並んで歩き、やがて住んでいるアパートに着いた。階段を上っている途中、レイが鞄を落とした。
「はぁ…」
アスカは小さく鼻で笑う。レイは慌ててしゃがみ込み、鞄を拾うと、そのままアスカの後を追った。先に階段を上りきったアスカは、ポケットから鍵束を取り出す。いくつかある鍵の中から一つを選び、ドアの鍵穴に差し込んだ。カチ、と小さな音。鍵を回し、ドアを押し開ける。
「ただいま…」
アスカは先に部屋へ入った。
アスカは靴を脱ぐと、そのままリビングのソファに倒れ込んだ。ぐったりと背もたれに体を預ける。
今日は一日中外にいたのだ。さすがに疲れていた。
「おい、レイ。こっちきて。」
ワンダースワンの電源を入れながら声をかける。
少しして、隣のクッションが沈んだ。レイが静かに腰を下ろす。
アスカは片腕を伸ばし、その肩に軽く回した。
「さっきの男って…」
画面から目を離さないまま、ぼそりとつぶやく。
「誰?」
(ドン)
「渚カヲル君。私の友達。」
「もう言ったわよ。どんな友達。」
「家族ぐるみ。」
「アンタだって、家族がいる?」
「はい。」
レイは少し身を乗り出し、アスカのワンダースワンをのぞき込む。
「何するの?」
「ゲームだって、してるだけわよ。」
「そうか。」
「っ…ん」
気づけば、アスカはそのままレイの肩にもたれかかっていた。レイは視線を落とす。
「何してるの?」
さっきより少し不思議そうな声。
「動かないで。」
アスカは相変わらず画面を見つめたままだ。
「楽だから…動かないでよ。」
「そうか。」
レイは本当に、ぴたりと動かなくなった。
少しして、膝の上を見る。それからまた、アスカのゲーム画面へ視線を戻す。
「楽しい?」
「…まあ。でしょ。」
「そうか。」
ぴくり、とアスカのこめかみが動いた。
「アンタさ、『そうか』ばかりだって—」
突然体を起こし、レイの方を向く。
「イライラするわよ!」
ふん、と顔を背けた。(ふん!😡)
「何見てんのよ…」
「怒ってるの?」
「うっさい。」
その瞬間。レイが床を指さした。
「死んだ。」
「あ。」
ワンダースワンがソファから落ちていた。
「分かったわよ。」
ため息をつく。そのままレイをぐいっと引き寄せた。
「…アスカ?」
「っ…冷たいから。うるさい。」
「あったかいけど。」
「もううるさいわよ!だって—」
アスカは途中で言葉を止める。
「何?」
「別に。キスしてこい。」
「なぜなの?」
「したいから言ってるんじゃん!もう、いいわよ!」
(ちゅ~)
苛立ったように言いながら、結局アスカの方から距離を詰めた。唇が触れる。
柔らかい。
いつも通りだ。
少しして、アスカは顔を離した。
ふと、レイの顔を見つめる。
夕日がブラインドの隙間から差し込み、その横顔を淡く照らしていた。いつの間にか窓が少し開いている。夜の風が、静かに部屋へ流れ込んでいた。
「その顔って…」
アスカは小さくつぶやく。
「可愛すぎ。」
珍しく、本気だった。
白い肌。赤い瞳。いつもの無表情の奥にある、どこか無垢な表情。
アスカは指を伸ばし、レイの髪に触れる。短い髪が指の間をすり抜けた。
それでもレイは、相変わらずの無表情。アスカは思わず鼻で笑う。
「で、何その顔?」
「何?」
「ちょっ、ちょっと、無反応じゃない?」
「あぁ。」
「えぇ?何よそれ、冷たすぎでしょ?」
「はい。」
「まぁ...いいわよ。ちょっと面白いから。可愛いよ。」
「可愛い?」
「ちっ。もちろん。」
アスカはレイの額を軽く弾いた。
「でも嫌じゃなかった。キス。」
レイは小さく顔をしかめ、額をさわる。
「好き?」
どこか子供みたいな声だった。
「当然よ。レイのキス、嫌なわけないでしょ。」
「そうか。もっとキスしていい?」
「ちっ。レイって、甘えん坊ね…なのに全然顔に出さないのね。」
「わからない。」
「っ、そんなわけないわよ。」
アスカは立ち上がり、そのままレイの手を引く。
「ほら、そろそろ夕食でしょ。」
「うん。」
「可愛い。超可愛いよ、アンタ。この表情、あたしだけ見てんじゃん。」
レイは少し考えてから言った。
「おなかすいた。」
「わかった、わかった。アンタって、ほんと甘えん坊ね。」
アスカはキッチンへ向かう。
冷蔵庫から残り物の弁当を取り出し、電子レンジへ放り込んだ。
その横で、レイはすでに包丁を手にしている。
「まって。まだそんなことするの?もう遅いでしょ。」
レイは壁の時計を見る。
「遅い…」
(ドン)
「はい、はい。わかったわよ。ほら。」
レンジが鳴る。
アスカは弁当を取り出し、テーブルへ置いた。
「いっぱい食べなさいわよ。」
レイは素直に椅子へ座る。
アスカももう一つ弁当を取ろうとしたとき、
冷蔵庫の上段にあるものが目に入った。
サラダだ。
少し考えてから、それを取り出す。そしてレイの前に置いた。
「ベジタリアンでしょ?アンタ、草でも食べとけよ。」
「雑草?」
「冗談よ。」
アスカは肩をすくめる。
「アンタ、ほんとわかんないわね?」
「わからない。」
(ちっ)
アスカは小さく笑い、もう一つの弁当を持って席に座った。
窓の外を見る。
もう夜だった。空には星がいくつか散っている。
「ねえアンタ。」
「何」
「このあと、早く寝ようよ。」
「うん。寝よう。」
「アンタって、ほんと何もわかってないよね。その顔、無表情すぎじゃん。」
レイは少しだけ首を傾げた。
「そうか。」
サラダを一口食べる。
アスカはまた、ぼんやりとレイを見つめる。
そして、ぽつりとつぶやいた。
「可愛い。」
