Work Text:
「あの山がよく見えるトコに行こう」
突然、ラメザンにそう言われて向かった場所は、この国でとても高い山がよく見える丘だった。
足の悪い僕に気を遣ってか、彼はゆっくりと歩調を合わせてくれている。
「天気が良くてラッキーだったな」
先に目的地に着いた彼が振り返り、僕に笑いかける。すっぽり雪に覆われた山によく映える、澄んだ青空。
さて、とラメザンは両手に抱えていた包みの紐を解き、バッと広げた。それはこの国の国旗に似た、緑・白・赤の3色を彩った三角形のカイトだった。
「僕、持ってあげるよ」
この大きさでは一人で飛ばすのは難しいだろう。支えるくらいなら僕でも出来る。
風がやや強く吹いた。
「よし、飛ばすぞ」
糸を引っ張る彼の声に合わせ、僕はカイトを手放した。
風の力で大きなカイトはふわりと浮き、ぐんぐん空高く舞い上がった。
「凄い…」
三色のカイトは鳥のように大きく翼を広げ、空を自由に飛んでいるかのように見えた。
(僕もあのカイトのように自由に空を飛べたらなぁ…)
ここ数ヶ月の間、この国の状況は最悪の方向に向かっている。女性をはじめ、罪のない若者達が降り注ぐ鉛の雨に撃たれて命を落とし、大地は彼らの流した血で真っ赤に染まってしまった。
僕らはただ、平穏な生活を望んでいるだけなのに。
その時、どこからか〝声〟が聞こえた。
《大丈夫だよ》
「えっ?」
慌ててラメザンの方を見るが、彼は黙々とカイトを揚げているだけだ。
上を見上げると、〝声〟はまた聞こえてきた。
《君たちの願い…そう、『自由』を手にする日は必ず来る。信じる力をつけておけば、きっと》
それだけ言うと、〝声〟は聞こえなくなった。
と、同時に風が止んだのか、カイトがふにゃふにゃと下がっていくのが見えた。
「あー、もうこれ以上は無理かな」
ラメザンは諦めたかのように呟くと、糸を巻いてカイトをこちらに引き寄せた。
「…さて、帰ろうか」
「ねぇ、どうしてあんな所でカイトを揚げようなんて思ったの?」
帰りに寄ったカフェで僕はラメザンに訊いた。
「ん?なんて言うかな…一種の願掛け?」
それから彼は他の人に聞かれないよう、僕の耳元でそっと話した。
「僕と同じ願いだ…それと、あの〝声〟」
「声?」
「ううん、何でもない」
とりあえず、あの〝声〟は僕だけの秘密にしておこう。
いつか『自由』を手にする日が来るその時まで。
