Actions

Work Header

Rating:
Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationships:
Characters:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2022-09-02
Words:
3,126
Chapters:
1/1
Kudos:
2
Hits:
94

お互いが一番の宝物 / part of your world (each other)

Summary:

何だかんだ全て上手く行った二人の甘々です
When Ed falls asleep, Stede finds something mysterious box.

Work Text:

お互いが一番の宝物

 

 「エド〜?いるのか…い…」
スティードの朗々とした声は、船長室の扉を開けた途端潜まった。部屋には午後の柔らかな日差しが差し込み、宙の埃が光を反射してキラキラとまたたいている。
 スティードは音を立てないように慎重にドアを閉めると、そろりそろりと忍び足でこの部屋の特等席に近づいた。窓際に作られたその特注のベッドは膨らみ、さらに注視すると、時計の長身が動くような速度でゆっくりと上下している。耳を済ませば微かに落ち着いた寝息が漏れてくるのも分かった。
 エドがこっそり私のベッドで寝ているらしいとは薄々勘づいていたが、現場を押さえたのは今日が初めてだ。シーツに広がる銀色の髪が上等なタッセルのようでとても美しい。スティードは枕元で自分の金髪の中に、時々この銀色の長い髪を見つけるのが好きだった。
 エドがすっかり寝入っていることを確認して微笑むと、スティードはベッドの周りに放置された彼の衣服を見渡した。黒レザーのトップスとボトムスの横には、やや丁寧に置かれたゴテゴテのナイフと拳銃。何十個もの指輪とベルトに、とにかく重いブーツ。そこら中に雑然と投げ出されている様子が、むしろそういうアートのようでもある。

 しかし、スティードはその中に見慣れないティーキャディが転がっていることに気がついた。
「なんだろう…?」
 ティーキャディとは、高価な茶葉が盗まれないよう保存しておく小さな鍵付きの箱である。ローズウッドで出来たそれは、エドの雄々しい持ち物の中で一際浮いている。手に取って振ると、カラカラと音がした。鍵も特にかかっていないようだ。
 スティードが慎重に開いてみると、そこには茶葉ではなく、もっと魔法のようなものが詰まっていた。
 カットスチールでストラボルギーの紋章が入ったボタン、マイセンのミルクジャグの蓋、スターリングシルバーのキャディースプーン。ヘリオドールやクリソプレーズなんかもゴロゴロと入っている。ブルーガラスの瞳をした首だけの人形と目が合い、思わずギョッとした。

 その時、背後でシーツの擦れ合う乾いた音がした。ティーキャディを置いて振り返るとエドがちょうど目を覚ましたところだったようで、むっくりと上半身を起こしている。長いまつ毛を手の甲で擦ったエドは、私と目が合うとビクッと反射的に固まった。
 「スティード!?す、すまん、他人のベッドなのに寝入っちまって…」
エドは慌ただしくベッドから降りようとするが、少々オーバーサイズな掛け布団に足を取られて危うく転けかける。
「気にしないで!君も自由にベッドを使ってよ」
「本当か?!」
スティードはエドの体を咄嗟に支えると、鼻がぶつかりそうな距離で微笑む。正直あのふかふかが大好きだったエドはすぐさま彼に飛びつこうと体を起こした。
 すると肩越しに、あの小さな箱が開いていることに気付いた。
「あれ?箱の中身…見たのか?」
あの箱には、黒ひげが集めたとは思えないような繊細で脆い物ばかり詰め込まれている。一度イジーに見つかった時には『こんなガラクタを!』とこっぴどく説教された。きっと高貴なスティードから見ればいっそう二束三文の集まりだろう。エドはスティードの受動的攻撃が飛んでくるのではないかと、一瞬身構えた。

 「あぁ、とっておきの宝石箱みたいですっごく素敵だねぇ」
エドワードの予想に反して、スティードはうっとりと嘆息した。思わぬ返答にエドは目が点になってしまう。
「集めるの大変だっただろう?昔使っていたものもあって、なんだか懐かしくなったよ!…あ、もしかして見られたくないものだったかい?」
耳元でそう穏やかに話すスティードに、エドの顔色はみるみる晴れやかになった。
「…そうだろそうだろ!貴族の船を襲撃する度にチマチマ集めてきたコレクションなんだ。何に使うのかは全く知らないけどな!」
 めいいっぱい頬を綻ばせたエドは、スティードの腕をバシバシと叩くとローズウッドの箱を引っ掴んだ。鼻息荒く箱の中身を取り出そうとするが、太い指はツルツルとその小さなコレクションたちをつまみ損ねる。そのうち箱をテーブルの上でひっくり返したので、スティードは若干面食らった。
「このボタンは紋章から見るに、イギリスのストラボルギー男爵家のものじゃないかな?この黄色の宝石はヘリオドール、緑の宝石はクリソプレーズだろう。クリソプレーズはギリシャ語の『金』と『西洋ねぎ』を合わせた言葉なんだよ」
テーブルの上に散らばったエドの小さな宝物たちを、スティードは一つ一つ手に取って眺める。その流暢な語り口に、エドは目を見張った。
 「お前…マジですげぇなスティード!なんでも知ってるんだな!」
エドの瞳は途端にスモーキー・クオーツの宝石のように茶色く煌めいた。彼が『よく分からないけどきれいなもの』としか考えていなかったアイテムに、それぞれ意味を持たせることができる。スティードの心はなんだか温かくなったが、同時に少し気恥ずかしくもあった。

 「いや、私もなんでも知ってるわけじゃないよ。…特にこれらはね」
そう言うと、スティードは暖炉の上に掛けられた絵画に歩み寄った。額縁の下を押すとカチッとどこからか音がして、壁の一部がゴゴゴ…と動き始める。
「おっ、お??」
この部屋には一体いくつ仕掛けがあるんだ?やがて本棚の後ろからスティードの隠し棚が現れると、エドは顎が外れるかと思うほどあんぐりと口を開いた。
「実は私も、憧れの世界のものを収集するのが好きでね」
やたら仰々しい演出にエドが呆気に取られているのに、スティードは照れ臭そうに髪を掻いた。
 それは、スティード秘蔵の海賊コレクションだった。大量のサーベルや拳銃といった自慢の逸品に加え、各国の海賊船で使われていた旗々も飾られている。
「すげぇ!これってネイズビーの戦いで国王軍が使ったマスケット銃じゃねえか?!こっちのターンオフピストルは鋭いリロード音が最高なんだよなぁ!私もお気に入りなんだ!」
エドが急に早口になったので、スティードは若干圧倒される。正直銃は銃としか思っていなかったので、そんなに細かな違いがあるとは知らなかった。
 「はは、昔から海賊のアイテムをこっそり集めていてね。憧れが募って、こうして本物の海賊になったわけだけど」
他にもエドは、分度器のようなアイテムは空の星を観測して船の位置を特定する天測器、ところどころが破れた茶色の紙は地中海を記した海図だと興奮気味に話してくれた。特にロードストーンというコンパスを作るのに必要な磁力を帯びた石は文鎮かと思っていたので、スティードは関心しきりだった。重い石を丁寧に台座に戻したエドは、その横に小さな瓶が飾られていることに気づいた。

 「なんだこれ?」
「あぁ、『黒ひげの髭』だと売られていたものだよ!買った時には、まさか本物の君に会えるとは思ってなかったけどね」
確かによく見ると中に黒々とした縮毛が詰まっている。エドはそれをは手に取ってしばらくしげしげと眺めたが、うーんと唸って首を傾げた。
「いや、私の髭が本当に黒かったのなんてだいぶ昔の話だぞ?それに私の毛はもっとキューティクルがつややかでしっかりしている。どっか知らんおっさんの陰毛…いや偽物なんじゃないか」
「えっ…」
スティードは一瞬で無価値と化したその小瓶を見つめ、高かったのに…とがっくり肩を落とす。
 それを見たエドは瓶の中の誰かの毛を振り落とすと、自分の髭を2、3本ブチブチと抜いて中に詰め直した。
「これで本物だ」
スティードの顔に、再び太陽のような明るさが戻った。

「海賊が使う物のこと、もっと教えてくれるかい?」
自分じゃ取るに足らないと思っていたものが、エドワードにとってはかけがえのない宝物だったとは。スティードは思わず嬉しくなってしまった。それはエドも同じようだ。
「私も他に教えて欲しいことは山ほどあるぞ」
エドはスティードの肩を勢い良く抱き寄せると、ぐりぐりと額を寄せた。
「お前に教えてもらわなかったら、私の宝物もずっとただのガラクタだっただろうしな!」
「うん、お互いがいたからこそだね」
スティードはエドのひげがチクチク刺さる感覚にくすぐったそうに目を細めると、くすくすと笑った。
やがて二人はそれぞれのコレクションを手に取ると、夢中になって語り始める。船長室に差し込む穏やかな日差しは、そんな彼らをずっと照らしていた。