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私たち『秘密の関係』な! /we have a ”secret relationship”, right?

Summary:

無事お付き合いし始めた二人です 徹頭徹尾ギャグになりました
They finally fell in love with each other, but they decided to keep it silent to the other crews.

Work Text:

私たち『秘密の関係』な!

 

 朝、スティードが顔を洗い、髪をとかして外に出ると、彼の恋人が銀髪を靡かせていた。夜明けの潮風を浴びて揺らめくその人に、優しく語りかける。
「おはよう」
「おはよう、よく眠れたか?」
気がついたエドは振り返ると、少しカサついた声でスティードへ微笑んだ。その髪に幾つか寝癖が跳ねているのを見受けたスティードは、つい顔を綻ばせた。
「うん。昨日は雨音が心地良かったから…あの後」
スティードが暗喩に笑ってみせると、エドも思わせぶりに片眉を上げた。
 そう、彼らはついこの前結ばれた。捕まったり離れ離れになったりと紆余曲折あったが、幾つもの障害を乗り越えとうとう思いを通じ合わせたのだ。
「ほら、飯もう出来てるらしいぞ。行こう」
彼の目の前に差し出されたエドの大きく角張った手。スティードは何気なくその掌を取ろうとしたが、そこではたと思いとどまった。誰もいない静かな船上を見渡してから、少し背を伸ばしてエドの耳元で囁く。
 「あのね、私たちが付き合ってるってことだけど…クルーのみんなには秘密にしておいて欲しいんだ」
「秘密だって?この船は恋愛禁止なのか?」
予想外の提案に、エドは彼の大きな瞳を更に丸くした。せっかく素晴らしい彼氏ができたわけだから、彼としては今すぐ全船員に「スティードは俺の彼氏だ!覚えておけ、彼は最高だ!」と叫んで回りたい気持ちだったのだ。
「いや禁止ってわけじゃないけど…波風を立てたくないんだ。キャプテンとしての威厳も保ちたいしね」
 スティードが捲し立てるようにあれこれ訳を伝えるも、エドはいまいちピンと来ていないらしい。話を耳から流して、風にサラサラと揺れる恋人のブロンドを眺めている。
「それに、一人厄介なのもいるだろ」
「…あぁ、そういうことか」
その言葉にエドはやっと訳知り顔でほくそ笑んだ。彼らはいま、目元にタトゥーの入った同一人物を思い浮かべているだろう。
 「分かった。じゃあ表向きには引き続き“ただの友人”ってことにしとこう」
「本当に?良いのかい?」
エドはスティードの分厚い肩に手を当てると、深く頷いた。その物分かりの良さにスティードは内心拍子抜けする。彼は申し出に納得せず、ムキになるかもしれないと思っていたのだ。
「おぅ。隠し事って、何だかワクワクするな!」
エドもエドで、このささやかな協定に楽しみを見出したらしい。ぱちぱちと瞬きして輝いたヘーゼルの瞳に、スティードはほっと胸を撫で下ろした。
 こうして二人の、秘密のお付き合いが始まった。

 

 「あっ、おはようございますキャプテン!ちょうど並べ終わったところですよ」
「おぅ、おはよう」「皆おはよう!」
改めて食堂に入った二人はクルー達に軽い挨拶をするとそれぞれ自分の席に着いた。さりげないスティードの目配せに、エドはエネルギッシュにウインクして返す。
船員たちはスティードに教育された「いただきます」の挨拶をきちんと行うと、スプーンやナイフを引っ掴んでガツガツと思い思いの料理を食べ始めた。
 「なぁローチ、この甘いやつ美味いな!なんて言うんだ?」
「あぁ、ニンジンのグラッセですよ。バターとか砂糖で炒めるんです」
エドはサラダの横に添えられた小さなオレンジの欠片を、フォークで突き刺して尋ねた。ローチはボスに料理を褒められたことに若干鼻を伸ばしながら答える。
 「私も最近、ニンジンってやつの美味しさが分かってきてな」
エドは無意識に、スティードへ頭を向けてそう話した。
「そうかい!すごいねぇ」
スティードも無意識に彼の頭に右手を伸ばしそうになり、実際肘くらいまで伸ばした。しかしそこで、彼らの脳内は一瞬はたと冷静になった。
(いや、ここでボディータッチするのは“ただの友人”として不自然じゃないか?)
スティードは、伸ばしかけた手の行き先を急遽卓上のティーカップに変更した。エドもスティードに寄せていた体の重心をどっかと椅子の中央に戻すと、えへんと何度か咳払いする。
 「ところで、昨日は雨が結構ひどかったですね」
スティードの隣席のバトンズは、意外と良い姿勢で食事をしていた。相棒のカモメ(確か…名前はオリーブ?)も美味しいシーチキンを分け与えられ、彼の頭上でお行儀良くしている。
「そうだったっけ?私たちはあまり…いや、“私は“!あまり分からなかったなぁ!」
 何気なく返事したスティードは、二人の昨夜の甘い記憶を漏らしかけ、慌てて朗々とした声で誤魔化した。勢いで魚が喉に咽せ、盛大に咳き込みつつ何とか水で流し込む。
「そうだな、私も一人で!“一人で“!部屋にいたが全然分からなかった」
エドも素早く助け舟を出したつもりだったが、あまりフォローになっていない。だが船員たちはチラチラと二人を見つつも、自分の食事の方が優先なようだ。スティードとエドはもう余計なことは喋らず、目の前の鮭のムニエルに集中することにした。

 

 「なぁスティード、何か妙に疲れたんだが…」
辛くも朝食は切り抜けたが、二人がその短い時間でどっと疲労困憊したことは明らかだった。
「うまく誤魔化すって難しいね…ってわぁ?!」 
スティードもそう呟くと、頬にしわが寄るほどぐったりと甲板の手すりに顔を伏せる。
 やっぱり隠さなくても良いんだろうか、そう思っていた矢先。海面に映った俯く自分の影の背後に、小さな男がぬっと立っているのに気がついた。スティードの甲高い叫びにエドも振り返ると、同じくFワードを漏らして飛び上がる。
「何ですか二人して、幽霊でも見たみたいに」
「い、いや別に?」
二人が一番懸案していた男…イジーは、今日も相変わらずの仏頂面である。すっかり油断していたタイミングだったので、スティードは寿命が縮まる思いがした。
「というかどうしたんですか二人とも。今日なんか様子変ですよ」
 イジーたち黒ひげ直属の部下は、プライドもあってかリベンジ号のクルーと一緒に食事は取らないのだが、朝食の様子を見ていなくても二人の違和感はありありと伝わったらしい。こういう彼の勘の鋭さは、エドの右腕を長年務めている男なだけあって伊達じゃない。
「ははは、何でもないよ〜…だよね?エド」
「あ、ああ何でもない。むしろ絶好調だ」
スティードが背後でガシガシ小突いたサインの通り、エドも首を玩具のようにブンブン振るとお得意の目力で押し切ろうとする。イジーはなお怪訝な表情だったが、ボスの一言にうぅんと唸った。
 「そうですかねぇ…」
「な、今日は大砲の点検がまだだろ?さっさと済ませて来いよ」
イジーはまだ納得しきっていない様子だったが、エドが適当に急かすと渋々船尾の方へ去っていった。彼の後ろ姿を見送ると、再び二人はどっとため息をついた。

 

 「あれキャプテン、今朝はエドワードと一緒じゃないんですか?」
それから何日か経った日の早朝。スティードは珍しく髪もボサボサのまま、朝食の席に一人で現れた。
「うんまぁ…って、私が一人で起きてきても何ら不思議じゃないからね?」
寝起きで働かない頭のまま流しかけたジョンの言葉を、スティードは慌てて訂正する。まさか『エドは昨夜無理をしすぎたせいでまだベッドに沈んでいる』とは言えない。
 「えぇ、今日の料理は特に自信あるのに」
「せっかく付き合ってるのに、一緒に寝ないんですか?」
大皿を配膳するローチの横でフレンチーがさらっと投下した爆弾に、今度こそスティードは飲みかけの紅茶を思いっきり吹き溢した。
「えっ…なんでそれを?!」
「何って、みんな知ってると思いますけど」
彼がそう言って周りを見渡すと、食卓に座る大半の船員が同様に頷く。キョトンとしているのはスウィードとカモメだけだ。
 「見てれば分かる」「だな」
「というかあれで隠してるつもりだったんですね」
オルワンデやジム、ルシアスに口々に言われ、スティードは自分の顔が今赤いのか青いのか分からない。
「まず二人で同じ時間に朝食に来る時点で察しますよね」
「昨日の夕食の時キャプテンがテーブルの下でこっそりツンツンしてた足、俺のっすよ」
「えっ、えっ、そうだったの…?!」
 どうやら船長二人の恋仲は、すっかり半ば公然と化していたらしい。自分達だけが関係を隠せていると思い込んでいたスティードはアワアワと意味なく顔を手で覆った。
「というか別に隠す必要ないじゃないですか。二人はお似合いのカップルですよ」
あっけらかんとしたルシアスは、そう言って肩をすくめてみせる。スティードは彼らから刺さる視線から目を逸らし、口元を抑えた指の隙間からボソボソと呟いた。
「だって、私たちはキャプテンなのに…」
 「…はぁ〜呆れた。ここは海賊船だぞ?何を小さいことを」
「愛情や包容力のあるリーダーだと伝われば、俺たち船員にとってはむしろプラスですが」
ジムはどっかと腕を組むと、帽子の下から思いっきりため息を吐いた。横のオルワンデも控えめな態度を取りつつ鋭い正論をぶつけてくる。こういう時彼らの真っ当な意見は痛い。スティードがすっかりその勢いに気圧されていたその時、食堂のドアがギィっと開いた。
 「おはよう…何だ?」
部屋に入った途端、一斉に船員たちの視線を浴びたエドは、腰に手をやりつつ少し決まり悪げに席に着いた。
「ボス、腰痛めちゃったんですか?」
「ルシアス!」
ニヤッと悪戯げにちょっかいをかけるルシアスを、スティードは母親のように叱りつける。その声に驚いて寝ぼけ眼を開いたエドに、彼は気まずそうに伝えた。
「あのねエド、私たちのこと皆にバレてたみたいなんだ…」
スティードの囁き声をじわじわと吸収していったエドは、じっと見つめてくる船員達の視線を少し時間差をかけて理解した。
「そ、そうだったのか…」
 そしてそれきり、俯いて黙りこくってしまった。不安になったスティードは、そっと彼の肩に手をやった。
「エド?どうしたの?」
「い、いや…付き合ってるって公表するの、なんか、思ってたより恥ずかしいな…?」
エドは林檎のようになった頬のまま、照れ臭そうにスティードを潤んだ瞳でちらと見上げた。スティードは思わず真顔になる。
「エド…君ってやつは…」
その様子を察した周りの船員たちは、さっさと各々の食事に戻った。
 「おはようお前ら…何だ、どうした?」
ちょうどそこに運悪くやってきたイジーは、妙な雰囲気の食卓に眉をひそめた。
「あ〜イジーさん、今はちょっと邪魔しないでおきましょ。また今度説明しますから」
扉側に座るフレンチーは適当にそう言い包めて、イジーの背中をぎゅうぎゅう押してUターンさせようとする。しかしさっきから周囲を気にも留めず、至近距離で見つめ合っているエドワードとスティードを彼は見逃さなかった。
「何だ?どういう意味だ説明するって。というかあの二人いつまでああしてるんだ!おい!」
食堂には食器の音と、イジーの虚しい叫びがこだまする。しかしその声は完全に二人きりの甘い世界を形成し始めた船長たちに届くことはない。
 これならもう少し、秘密にしているつもりでいてもらった方が良かったかもな。そう考えながらルシアスはハニートーストを頬張った。