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Rating:
Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationships:
Characters:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2022-12-22
Words:
3,525
Chapters:
1/1
Kudos:
1
Hits:
40

食卓と諍い / Food and spat

Summary:

cpのよくあるほのぼの食事風景を書こうとしたら、思った以上に苦戦しました。よくあるよね、cpのほのぼの食事風景。
I don't know what to say… argument? quarrel? tiff? spat?

Work Text:

食卓と諍い

 

 スティードとエド、二人きりでの食事は久しぶりだった。
 というのも貴族達の豪華客船に乗り込み炎上させた日から暫く、リベンジ号はゆっくり食事をしている暇がなかったのだ。飲まず食わずだった日や、犬のように残飯を食らった日、船員たちと大騒ぎしながら呑み明かした日が続き、彼らは今夜ようやくダイニングテーブルの前に腰を落ち着ける機会に恵まれた。
 船長室にはローチが、キッチンから直接二人ぶんの料理を運んできてくれる。トマトソースパスタにシーザーサラダ、サングリアの赤ワイン。シンプルで家庭的だが、赤や緑の彩りがどれも食欲をそそられる。つる草柄のテーブルクロスが敷かれた二人用のテーブルには規則正しく人数分の大皿・小皿とワイングラス、カトラリー各種に蝋燭数本が並べられた。ローチは、他にも腹を空かせたクルーたちを待たせているからだろうか。「じゃ、ごゆっくり」と軽く頭を下げると、すぐに大部屋へ戻っていってしまった。ゴトゴトと重たい椅子を引きずり、スティードとエドは食卓を前に向かい合う。
「それじゃあ、いただこうか」「あぁ」
 スティードはナプキンを膝にかけると、外側のフォークを手に取った。トマトソースとパスタをよく絡ませてからくるくると巻き取ると、コクの深いトマトの香りが鼻腔をくすぐる。息を吹きかけて頬張ったスティードは、アルデンテな噛み応えに頬を緩めた。
 一方、エドは湯気立った料理を前に何か険しい表情である。ナイフとフォークを手に取ろうとして、やっぱり引っ込め、行き場を失った手はワイングラスへ伸びる。誤魔化すように半球の部分を鷲掴みにすると、匂いも嗅がず胃へ流し込んだ。
「最近のスパゲッティは少し焦げ目をつけるのが流行らしいよ」
唇にソースをつけることなく器用に口へ運んでいくスティードは、少しお茶目にそう語る。実際、鉄製のフライパンで少しお焦げをつけたローチのスパゲッティは味や食感に変化があって美味だ。
「へぇ、そうか…」
エドは一応スティードに相槌を打つが、話半分にしか聞いていないらしい。数多のカトラリーの上で手を泳がせている彼の様子をスティードは流石に察した。そういえばこの前の襲撃で、エドは貴族共にテーブルマナーを馬鹿にされたと言っていた。
「エド?ここには私しかいないんだし、マナーに気を遣わなくても…」
 しかしエドはスティードには目もくれず、眉間に険しく皺を寄せたまま、ナイフやフォークを手に取っては戻してを繰り返している。
「大丈夫だ。確か麺は、スプーンを受け皿にして…」
そのうちエドは、数本あるカトラリーから何とか一番端のスプーンを探し当てた。複数あるうち二番目に大きいスプーンで、柄の部分に草花の紋様が施されたものだ。
「いや、パスタを食べる時はスプーンは使わなくてもいいんだよ」
「じゃあこうか?」
スティードに言われて、エドは今度はナイフを手に取り始めた。右と左を確かめ、どちらがどちらだったかと交互に見つめる。そのたびにカチャカチャと食器の金属同士がぶつかり合い、高く打ち鳴らされた。
「ううん、ナイフも使わないんだ。フォークの先をこう、くるくる回転させて…」
 スティードはゆっくりと、パスタを巻き取る仕草を彼に見せる。銛のようにフォークを構えたエドは同じように、真っ赤なパスタの中でぐるぐるとそれを回転させた。しかし、辺りにびちゃびちゃとソースが飛び散るだけでうまく麺が絡みついてくれない。なんとか三つ又にほんの少しのパスタを引っ掛けると、エドは落とさないよう慎重に口に運んだ。
「…少し塩っ辛いな」
何度か咀嚼して飲み込んだ後、エドはボソッと溢した。どこか虚しいその声が、ほとんど減っていないパスタの上に溶ける。
「ねぇエド、本当に気にしなくて良いんだよ?自分のペースで食べてもらって…」
見るに忍びなくなったスティードは自分のフォークを置くと、カトラリー類がぐちゃぐちゃになってしまったエドに声をかける。しかし彼から被せるように返ってきた言葉に、体が反射的に硬直した。
「なんだよ、俺の食べ方が酷くて見てらんねえってか?」
 その瞬間、船長室が一気に静かになった。外で響いているはずの波も無音になり、赤黒いワインの水面がピンと張り詰める。
「そ…んなこと思ってないよ」
突如会話に現れた棘に、スティードは戸惑いがちに首を振った。覗き込むように姿勢を低くしてエドの顔色を伺うも、泥酔時の如く座った目と視線が合ってゾクリと体温が冷えてしまう。
「はっきり言えばいいだろ、どうせお前には出来ないって!」
「違うって…どうしてそんなに卑屈になるんだ!」
 不機嫌なエドの声は次第にドスが効き、ついに彼は鼓膜が震え上がるほどに低く怒鳴った。ここ最近の疲れが溜まっていたからだろうか。スティードも普段なら下手に出て優しく彼を宥めていたところを、ついムキになって言い返してしまった。
「一挙一動気にしながら食べていたら、せっかくの料理も味がしないじゃないか」
「お前こそこれ見よがしに上品に食いやがって、当てつけのつもりか?」
スティードはなるべく平静を保とうとするが、だんだん語気が荒くなるのが抑えきれない。それをエドは鼻で笑い、喧嘩腰な台詞を吐き散らす。食卓の上で生々しい言葉の弾丸と唾が飛び交う。
「そんなこと…無理しなくて良いって言ってるだけだろ!」「無理なんかしてねえよ!!」
 二人の諍いが頂点に達した時、ついにエドはシャンデリアが揺れるほどの剣幕でドン!とテーブルに拳を打ちつけた。食器が一斉に数ミリ跳ね上がり、ガチャガチャと騒ぐ。スティードはヒュッと息を飲むと、言いかけた言葉ごとピタリと押し黙った。
「…もういい」
 彼を怯えさせてしまったと気づき、エドは今更ながら自分にどうしようもなく苛立ちが込み上げてきた。もう手遅れだが、今や目の前のパスタも憎らしく見える。エドは深く溜息を吐くと、椅子を引いて食卓に背を向けようとした。
「駄目だ!一緒に食べなさいエド!」
しかし、スティードは立ち上がりかけたエドの腕を咄嗟に強く掴んだ。思ったより強い腕力にエドは一瞬動揺したが、すぐに目を釣り上げて舌打ちした。
「…何で」「だって私たちは家族だろう!」
 その言葉に、エドは固まった。食卓が再び静寂が流れ、揺れていたキャンドルの火も垂直に戻る。スティードも数秒経って、いま自分が何を言ったのかじわじわと理解し始めたようだった。
「…そ、その、こんな狭い船じゃ私たちは、家族同然だって言いたかったんだ。嫌になっても、逃げる場所もないし」
スティードは顔を若干赤らめながら、もごもごと弁明のようなことを口走る。エドは困惑した様子で首を傾げた。今度は挑発というより、ただ理解できないようだった。
「だからこうして、一緒にご飯を食べなくちゃ。…家族っていうのはどんな時でも、料理ができたら食卓に向かい合って座るものなんだ」
 最初は恥ずかしそうに語っていたスティードだったが、その表情は言葉を紡ぐうちに、だんだんと凛としたものに変わっていった。自分で口にしたことを自分で反芻するように。エドは彼の揺るぎのない瞳に、やがて浮かせかけた腰を元に戻した。ごとごとと音を立てて、座面の柔らかな椅子が再び軋む。
「…せっかく練習したから、正しいマナーで食事をしたかったんだ。ろくに出来てなかったけどな」
「そうだったんだね。余計な口出しをしてすまなかったよ」
彼の正直な言葉に、スティードはやっと温かいコーンポタージュのように微笑んだ。エドは未だ自嘲気味に笑った後、ふとぽつりと呟く。
「…なぁ、お前は本当に家族なんてものを信じてるのか?」
 その言葉に、スティードは再び口を噤んだ。
「俺の家では温かい家庭の食事なんて無かった。飯はいつも少なくて古くて、いつも親父の機嫌を損ねないようビクビクしてた」
エドは大きな目玉を左右させて俯くと、聞こえないくらいにボソボソと話した。まるで記憶に巣食う父親に怒られないよう、怯えているように。
「…私も幼い頃は乳母とばかり居て、両親と食事する機会はほとんど無かったよ。結婚してからも食卓では空気のような存在だったし」
 エドは思わず顔を上げた。スティードの太陽のような笑顔は少し陰ったが、尚語り口は明るいままである。
「その分、ここでの生活にはすごく満足してるんだ。誰かと笑い合ってご飯を食べることなんて、ほとんど初めてだったからね」
スティードの瞳に煌々とした光が灯る。ぽんぽんと弾むようだったその声は、次の瞬間には深く決意を固めたものに変わった。
「だから、このかけがえのない家族を失いたくないんだ」
そのはっきりとした言葉がそよ風になって、サラダのレタスがほんの少し靡く。エドは思い出した。スティードはいつも情けない男だが、時々本当にかっこいいことを言う事を。
「さ、続きを食べよう。もうだいぶ冷めちゃったけどね」
 スティードはすぐにパッといつもの笑顔に戻ると、いそいそとフォークを右手に構え始めた。エドは暫し呆気に取られたが、その変わり身に思わず吹き出してしまった。
「ふはっ、ちょっとくらい冷めても大丈夫だ。…またパスタの巻き方、教えてくれるか?」
「もちろん!」
若干伸びたパスタと少し水気を失ったサラダが、待ってましたと言わんばかりに再び芳しい匂いを発し始める。多少口喧嘩をした後だとしても、誰かと食べる料理は美味しいものだ。カチャカチャ、タンタンと食器同士がぶつかり合う音は、次第に耳心地の良い音色へと変わっていった。