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高校生活も終わりが近づいたある日、サウステック大学の建築学部と工学部にそれぞれ推薦で合格を決めたばかりのパーンとパットから、改まって話があるとリビングに呼ばれた。
テーブルを挟みL字に向かい合って座ると、少し緊張した面持ちの彼らは、横目で視線を合わせて小さく頷き、パーンが膝の上のファイルから一枚のパンフレットを取り出してテーブルの上に広げた。それはサウステック大学提携の、アパートメントタイプのキャンパス外学生寮のパンフレットだった。
「大学に入ったら、パットと一緒にここに住みたいんだ。先週二人で一緒に内見に行って、大学にも近くてすごくいい所だった。人気の寮だから一般入試の結果が出るとすぐに埋まるらしいんだけど、今ならまだ空き予定の部屋があるんだ。家賃は……正直安くはないんだけど、高すぎることも無いと思う。……申し込んでもいい?」
パンフレットを手に取って、内容をよく読んでみる。確かにパーンの言う通り、悪くはなさそうだ。しかし……。
「パットのお母さんとお父さんにもちゃんと相談しなさい。」
「うちは、おばちゃんとおじちゃんが良ければいいって。家賃も俺の分の半額は出してくれるって。な?」
二人部屋の家賃の半額は、大学キャンパス内の古びた寮の相部屋の一人料金と比べると少し割高だが、個室よりは若干安く、設備も比較的新しめで申し分無く、全く運任せの相部屋のルームメイトと上手くいかないリスクを考えれば、確かに理にかなった選択肢だ。
「わかった。今夜お父さんと相談してみる。」
「あ、父さんも、母さんが良ければって……。」
そう言ってパーンは手元のファイルからA4の紙とペンを取り出した。それは件の寮の入居申し込み用紙で、既にジンダパット家の情報と共にミンの署名がされ、シリデチャワット家の住所や電話番号もパキンの筆跡で書かれ、残るは私が署名するのみとなっている。
……呆れた。つまりこの子たちは私をラスボスと定めて全ての外堀を埋めて来たというわけだ。果たして私はそんなに厳しい親であっただろうか。確かに昨年私が与えた、二人きりのときは部屋のドアを開けておけという言いつけは(目の届く限りでは)遵守されているし、一時は柵まで作って躍起になっていたミンもとうの昔に諦めて、最早誰もがお目こぼしている二階の屋根伝いの経路の通行禁止令についても、未だ口を酸っぱくして注意し続けているのは私だけだ。
ため息をついてやれやれと首を傾げると、二人の顔色は面白いように陰る。全く、そんなに理不尽な大人と思われているとは心外だ。私はゆっくりとペンを手に取り、最後の空欄に署名した。
その瞬間、二人は大きくガッツポーズをして抱擁を交わし、力強い大きな手で互いの背中をばしばしと叩き合う。その振動は別のソファに座っている私まで伝わり、ついこの間まで小さな丸い手で、粗末なプラスチックの車を一生懸命転がしていた姿が懐かしく思い出される。いつの間にか二人とも、見上げる程大きくなった。
「あなたたちももう十八歳、私は二人を信じてるから、これからは自分たちでちゃんと生活しなさい。」
「おばちゃん大好き!」
「ありがとう母さん!」
テーブルを回った二人に左右から思い切り抱きつかれる。力が強くて押しつぶされそうだ。それがたまらなく嬉しい。
「たまには二人で帰ってらっしゃい。トムヤムクン作って待ってるからね。」
この家もきっととても静かになるけれど、寂しがってはいられない。この機会に大掃除をして、長年に渡り誰かさんたちのお陰で傷んだ家の壁や塀を直そう。そうだ、ミンとルイも巻き込んで、二階に頑丈で安全な渡り廊下を作ってしまうのはどうだろう?独り立ちする悪戯っ子達に、知らない間にこっそり悪巧みをするのは、子供だけの特権ではないという事を思い知らせてやらなければ。
