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イジーハンズに休日を‼︎ / A holiday for Izzy Hands!!

Summary:

1/22 レカペにて展示した無配の再掲です。イジー主軸と言いつつ、イジーはあまり出てきません。

【黒ひげの】ある一級航海士のルーティン【右腕】の続編となっていますが、前作を読んでいなくても特に問題はないです。
前作は現在AO3とprivatterに掲載中のほか、同時に頒布した短編小説集『うつろい』でも読むことが出来ます。

『ドラ○もんに休日を‼︎』を大いに参考にしています。

One day, Revenge crews decided to give a holiday for Izzy hands. But it's kinda difficult not to rely on him.
Inspired by "A holiday for Doraemon!!"

Work Text:

イジーハンズに休日を‼︎

※【黒ひげの】ある一級航海士のルーティン【右腕】 続編

イジーが「俺の仕事ぶりを文章に記録しろ」とかいう謎のお願いをしてきてから数日後。今日もイジーは働きアリのように甲板を動き回っている。スティードとエドにあれこれ指示をされ、随分忙しそうだ。僕が「大変そうだね」と声をかけると、イジーは露骨に不機嫌そうになった。相変わらず分かりやすいな。
「ルシアスか、当たり前だ。海賊に休みなんか無い」
この暑いのに、黒いレザーをかっちり着込んで首元までボタンを止めている。ますますアリっぽい。
「えー、うちの船は週休一日と一年に六日の有給もあるのに」「は?」
その言葉に、イジーはポカンと口を空けた。横で覗いていたスティードがうんうんと頷く。隣のエドは「ゆうきゅう?」と首を傾げている。
「そうだ、イジーも休めばいいじゃん」
「あのなぁ、エドワードがそんなこと言うわけ…」「いいぞ?休んでも」
重ねるようにあっさり承諾したエドに、イジーは呆けた口のまま目も見開いた。未確認生物でも目撃したのかって顔つきだ。
「いや…もし何か面倒なことがあったら…」
「だーいじょうぶだって!」「前に図書室の本を読みたいって言ってただろう?ぜひゆっくり休んで読むといい!」
スティードとエドは満面の笑みを浮かべると、イジーの背中を交互に叩いた。イジーはその激しい勢いに思わず顔を顰める。だがその釣り上げられたハゼみたいな表情にも、やっと喜びが見え隠れし始めた。
「本当に良いんですか…?」「当たり前さ!じゃあ明日は一日、イジーは休日ってことで!」「は、はぁ…」
我ながら、なかなかナイスなアイデア。胸の前でパチンと手を合わせると、イジーは若干困惑しつつ、下手くそに口角を上げた。

次の日。イジーは朝食の時間の後、約束していたスティードの図書室に寄った。イタリアの古い叙事詩を何冊か借りたらしい。「本当に良いのか?」と何度も聞いてきたので、最後の方は僕とジョンで無理やり彼を自室に押し込んだ。マジでイジーは、ダラダラして一日過ごす喜びを一度知るべきだと思う。
「なんであんなに休むの嫌がってたんだろね」「船員が一瞬減るくらい、どうってことないのにな」
イジーに半強制的に休日を与えた後、僕とジョンは口々に軽く言い合った。そう。最初は僕たちも、本当に“どうってことない“と思っていたのである。

最初に騒ぎ出したのはスティードだ。
「エド!ルシアス!あとローチとジムと…とにかくイジー以外みんな来なさい!」
スティードのよく通るテノールボイスは、間も無くほとんど全員のクルーを食堂に集めた。見るとテーブルの上に、朝食の残骸がぐちゃぐちゃに放置されている。皿は全て綺麗に配膳されているのに、食材だけ見事に無くなっているので、まるで美味しいところだけトンビにでも掠め取られたみたいだ。
「誰だい、皿洗いの当番をサボったのは?」
「当番?そんなのあったか」「台所はローチの仕事じゃないの」「いや俺、後片付けはしない派なんだよ」
スティードは丈の長いコートの腰に両手を当ててプリプリと怒る。船員たちはそれぞれ互いを見やったが、誰が洗い物担当なのかさっぱり分からない。ローチも何故か堂々と腕組みしてるけど、たぶん元はあんたの仕事でしょ。
「仕方ない、誰でもいいから片付けるように!」「えーっ!じゃんけんで決めましょうよ」「そのじゃんけんって、船長も混じらなきゃいけねえヤツか?」
面倒事に巻き込まれそうだったので、僕(とフレンチー)はみんなが騒いでいるうちに食堂から抜け出した。どうやら僕たちは、イジーの仕事量を甘く見ていたらしい。僕は早くも、彼不在の重大さをじわじわと実感し始めた。

その後、ピートが服にカモメの糞を落とされたとかで、「替えの服はどこだ」と言い始めた。
「おかしいなぁ、いつもこの辺にあったはずなんだけれど…」
スティードは『クルーのためのキレイな服リスト』と書かれたタンスを引っ掻き回しては頭を抱えている。そもそもこの船に洗濯という概念があったのかさえ不明だが、どうやら時々「汚い服」から「汚いけど多少ましな服」に取り替えられていたらしい。
「キャプテンの服貸してくださいよ、いっぱいあったじゃないっすか」
何故か女物の下着が入っていたりする衣装ダンスを覗きながら、ピートはぶつくさと呟く。
「でっ出来ないよ!もう一度カモメの糞を落とされたらどうするんだい!」
「一日に二度も糞を落とされるとか、僕ならもう寝込むね」
横で茶々を入れる僕を、ピートはジトっと白い目で睨む。
「うーん、確か青いボーダーの入った服が合ったはずなんだけど…」
青いボーダーと聞いて、僕は急にハッとした。そうだ、と薄い記憶を辿りながら口を開く。
「イジーに聞いたらいいんじゃないですか。確かイジーがその服干してるの見たことありますよ」
「いや、それは駄目だよ!彼は今日一日お休みだって話しただろう」
スティードは一瞬喜びに顔を明るくしたが、すぐにとんでもないと眉を険しくした。ちなみにピートはまだピンと来ていないらしい。
「そもそもカモメに糞を落とされたピートが悪いんだ。今日は一日半裸で過ごしなさい」
鶴の一声じゃないけれど、スティードは声量があるから一見理不尽な言葉でも何故か説得力がある。ピートは渋々頷くと、「バトンズの服でも盗るか」と部屋を出て行った。

それからも、今日のリベンジ号はトラブル続きだった。突然の雨で甲板のハンモックがびしょ濡れになったり、夕飯のオマール海老の在庫がいつの間にか切れてたり、全員舵を握り忘れていて危うく岩場に座礁しかけたり。そのたび僕たちは船をひっくり返したように大騒ぎして、一日が終わる頃には全員ヘトヘトになっていた。
「もしかしてよ…イジーって無茶苦茶、この船に貢献してたのか…?」
なんとか岩場の迂回に成功した後、エドはぐったりと座り込んで呟いた。それ、僕も今朝からずっと思ってたやつ。思い返せば黒ひげの一味がやって来てから、この船もある程度の秩序と清潔さが保たれるようになった。正確に言えば、イジーが来てからだったのか。
「由々しき、事態だ…!明日から、皿洗いと洗濯は、当番制に…」
スティードは一日中動き回って全身ガチゴチになったらしい。腰に手を当てながら呟く声が死にかけのお爺ちゃんみたいだ。僕も「多分その当番もすぐに皆忘れると思いますよ」と言う元気は無い。
その時だ。バトンズがぼんやりしたまま「向こうに敵船が見えます」と叫んだ。
「え?」
一呼吸置いて飛び上がると、確かに夜に沈んだ水平線のギリギリ向こうに、うっすらと揺れる灯りが見える。
「あれはー…多分オランダ船ですね」
「何だって!ど、どれくらい強いんだい?!」
一体バトンズの視力はどれだけあるんだ。スティードがまず大袈裟に慌て始めるが、どっと疲れの溜まった船員たちは誰も動こうとしない。それはもう一人のキャプテンも同じらしかった。
「おいおい、いま戦闘は勘弁してくれよ…信号だ。イジー、カンテラを…」
そう言って右手を伸ばしたところで、エドははたと止まった。
「…エド?まさか自分は発光信号分からないとか言わないでくださいね?」
僕が恐る恐る尋ねるが、エドは黙ったままひげをピクピクとさせるばかりだ。
「“ぶっ殺す”って信号なら分かるが、“今は疲れてる。後にしてくれ”はどう表すんだ…?」
どうやら本当にまずいらしい。船員たちも流石に慌て始めるが、互いにオロオロと顔を見合わすばかりだ。
「イジー!誰かイジーを!」「呼びに行ったんですけど熟睡してます!起きません!」
クソッあの人、休日は寝て過ごすタイプか。そうこうしている間にも敵船はどんどん近づいてくる。もう向こうに乗っている船員の数が分かるくらいだ。はっきりとは見えないが、皆何だか腹立たしい顔をしている。
「仕方ねえ、大砲ぶっ放せ!」
「駄目だよ!大砲なんて打ったらイジーが起きてしまう!」
「こんな時に寝てる奴の心配してる場合か!」
しまいにはキャプテン同士で仲間割れする始末だ。あーあ、この船今日で終わりかもな。僕は半分諦めムードで、夕飯の生焼けパンが最後の晩餐とか嫌だなぁ、とか考えていた。
すると、その横であぐらをかいていたジムがおもむろに立ち上がって叫んだ。
「¡Silencio!」
そして腰に刺さったナイフを一本、海の向こうの船目掛けてぶん投げた。一寸経ってオランダ船に火の手が上がる。そして間も無く、割れるような轟音と空まで届く爆炎と共に、船が大爆発した。
「…オルワンデ、ジム今なんて言ったの?」
「“うるせえ”」
「バトンズ、何が起きた?」
「ジムの投げたナイフが、オランダ船の火薬の積荷に刺さって、火花が引火して船ごと吹き飛んだ」
そんなことあるか!!と思わず叫びたくなったが、現にそうなっている。振り返ると、キャプテンが二人とも目を点にして夜の海に上がる巨大な打上花火を見ていた。
「え、あー…まぁ、良かったのかな?」
「あの船の品がこっちまで流れてくるぞ、片っ端から貰って行こうぜ!」
エドがそう叫ぶと、クルーたちも呼応するように雄叫びを上げる。スティードが「静かに!」って言うから皆イジーの寝顔を思い出して黙ったけど。その後僕たちは一ポンドも残らない程に、向こうからお辞儀してやって来た戦利品を拾い尽くした。

翌朝、イジーは久々にスッキリとした表情で食堂に現れた。最近目立っていた目元のクマも、眉間に刻み込まれた皺も消えている。
「いやぁ良い休みだった。お前ら大丈夫だったか?」
イジーは席に座ると、小さくあくびを噛み殺しながら尋ねた。僕は笑って返す。
「当たり前じゃん。平和な一日だったよ」