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私のだって叫びたい!

Summary:

再会後マチュに誘われてマチュニャアとバカンスダブルデートをするシャアシャリの話です。シャア→シャリア矢印大、マニャシュ三人カプ前提ですがシュウジは不在です。
今作のみ視聴済、なんやかんやあってなんやかんや平和になっている世界です。
再会話と同じ世界ですがこの話だけでもお読みいただけます。

Work Text:

 ざざ、と聞こえた波の音に目を細める。
 肌を照らす鮮やかな陽の光をぼんやりと眺めて、シャリアは思っていたよりも暑かったことに小さく笑った。
 地球の夏、信じられないぐらいに平和な海辺の午後である。
 数年前に起きた一連の出来事に巻き込んでしまった――というよりもどちらかというと向こうから飛び込んできた――彼女の誘いとはいえ、まさか自分がこんなところに来るとは思わなかった。穏やかすぎる光景になんだか落ち着かないような気すらしてくる。やわらかな風が前髪を揺らして目元を撫でていった。秘匿エリアではその必要が無いからとマスクをしていないせいで、今シャリアの顔を隠しているものはハート型の極めて愉快なサングラスひとつだけである。それもなんだか、おかしかった。
 マチュから連絡が来たのは、数日前の深夜のことだった。ぴかぴかと光る端末の画面を見た時、シャリアはどうしてかあの頃彼女とこのぐらいの時間にカラフルな粒チョコレートの柄について真剣に話したことを思い出して笑ってしまった。宇宙も戦いも関係のない、まったくの日常的な会話は不思議とおかしかった。彼女はキャラクターの柄の入ったものの方が好きだと話していて、自分は入っていないものの方が食べやすいと言った記憶がある。ふうんと言った彼女はあの時赤色の粒をいくつもシャリアの手のひらの上に乗せてくれた。少しでも気を紛らわせることが出来たら、と菓子自体を渡したのはシャリアだったものの、彼女がざらざらと落としてくれた赤色の粒が妙に心をくすぐったことを覚えている。そんななんでもない記憶の時間にやってきたメッセージは、『ダブルデートの約束!』という更になんでもない内容と日時だけを知らせていた。
 そうしてやってきた、海である。あの頃確かに少しだけ彼女と海やデートの話をしたけれど、まさかこんなかたちで『ダブルデート』が実現するとは思わなかった。予定の時間に予定の場所に来た結果、シャリアを待っていたのはやや緊張した顔の金髪の男だった。
 あなた、そんなに分かりやすい顔をして良いんですかと笑ってしまいそうになりながら軽い挨拶を交わして、なんとも言えない距離を感じながらやわらかな砂浜に腰を下ろす。ダブルデートと言ってもシャリアがしたことはそのぐらいだった。
 元々今日は彼女たちの財布役でも務めようと思ってきていたのだからそれで良い。あの頃『全部終わったらさ、行けたら良いなって』と恋話の一部として話していた彼女からすると物足りないかもしれないけれど、シャリアとしては彼の顔を見られただけで十分だった。
 彼女たちに引っ張られて海の中へと転がった彼に小さく笑う。パラソルの下から眺める光景は平和だった。マチュの連れてきた黒髪の少女が慌てたように手を宙に浮かせる。マチュはけらけらと笑って水を跳ねさせていた。彼女たちが言うにはまだあとひとり足りないらしかったから、いつか三人揃った光景が見られたら良いと心中で願う。なにか感じるものがあったのか、振り返ったマチュがサングラス越しにこちらを見た。
 何か二人に言ったらしい彼女がこちらへと駆けてくる。やわらかな砂を踏みしめた足が軽やかに跳ねた。危なげなくやってきた彼女の影がつま先に落ちる。どうかしたのかと見上げると、マチュはむんと腰に手を当てて唇を尖らせた。
「ヒゲマンもおいでよ。海、嫌いってわけじゃないんでしょ?」
「それは、まあ……そうですけどね。ここで十分です。楽しんできてください」
「……あのひとのこと?」
「関係ありませんよ」
 ぱちぱちと瞬いた彼女がふうんと目を細める。別に嘘だというわけでもなかったから、シャリアは肩を竦めてつま先を砂に埋めた。海の風は気持ちいいけれど、はしゃいで水中に飛び込んでいくような年齢でもない。彼女たちが楽しげに遊んでいるのを眺めるだけで十分だというのも本当だった。
「シロウズさん、気にしてるみたいだったけど」
「でしょうね……」
「何が気になってるのかまでは読んでないんだ」
「人の心を覗くものではありませんよ」
「それ、ヒゲマンが言う?」
 じっとりとこちらを見たマチュが砂をつま先で弄る。どう呼んでも海中に飛び込む気がないことを察したようだった。
 ぴょんと跳ねた彼女が、「ニャアンー! ちょっと休憩!」と海の方へと叫ぶ。ペットロボットの足の先を水につけさせていた少女が大きく頷いた。流される心配をしていたのか、何をするでもなく彼女のそばに立っていたシロウズもこちらにやってくる。ざぶざぶと水をかき分けてやってくる彼がなんだか力強く見えて、シャリアは離れていた数年を思ってほうと息を吐いた。
 例の別れから数年経ち、彼が真夜中にやって来てから、何度か会う機会はあった。以前のような、とまでは言えないけれどいくらか話すようにはなっている。比較的平和な世が続いていることと、彼自身が争いに触れることを避けているのを感じて思考を読まないようにしているから、今のシャリアは彼の妙な緊張の理由がよく分からなかった。
 殺される危機を感じて、だとか、自分を警戒して、というわけではないようだったからいっそう分からなくなって、けれど一度あんなことになったのだから自分から不躾に触れることも出来なくて、今のところは一定の距離を保ったままでいる。何故かマチュは分かっているらしいことも不思議だった。
 濡れた足に砂を纏わせてこちらにやってきた彼が、視線をさまよわせてから隣に立つ。彼はほんの少しだけ躊躇したように唇を曲げてすぐそばへと腰を下ろした。濡れた遊泳用のウェアが身体に砂をまとわりつかせる。汚れますよ、と心の一部を明け渡すように伝えると、シロウズはなんだか驚いたような顔をして笑った。
「このぐらいかまわないだろう。遊びに来たのだからな」
「正直、あなたが来るとは思いませんでした」
「どうしてそう思う? 『ダブルデート』なのだろう」
「……よくご存知で」
 どこか得意気に言い放った彼に目を瞬かせる。ふふ、と声を零した彼は、ふいにシャリアの顔を見つめて唇を閉ざした。真っ直ぐな青い目に見つめられて眉を下げる。やわらかな金の髪の間から覗く瞳は不思議な熱を帯びたように見えた。
「……それは、どうしたんだ?」
「それ?」
「その……ものすごい、サングラスだ」
 懸命に言葉を探したらしい彼につい唇が緩む。「これですか」と掛けていたハート型のサングラスに触れると、彼は困惑したような顔をして頷いた。戸惑う気持ちも分かる。他に表しようがないほどのハート型である。巨大なふたつのハートによって作られた赤茶のサングラスは、堂々たる風格でバカンスを飾っていた。
「街の方に雑貨屋があったでしょう。ここに来る前に飲み物を買って……その時に、マチュ君が」
「彼女が?」
「『いいじゃん!』と」
「い、いいじゃん……」
 頬を引き攣らせた彼が、ちら、とこちらを見て膝を抱える。
 子どものようなそぶりにおやと首を傾けた。この頃の彼は分かりやすく感情を表に出している。どうやら以前よりもリラックスした暮らしができているようだった。
「……それは、ずるいんじゃないか」
「ずるい? 何がです?」
「『ダブルデート』なのだろう。揃いのものを使うのなら、私とということになるのでは?」
「あなたまさか……」
「嫉妬だ」
 堂々と言い放った彼が、何か覚悟を決めたような顔をして立ち上がる。「すぐに戻る」と言って駆けて行ってしまうから、シャリアには止めることも出来なかった。
「あの……喧嘩、ですか?」
 ちらちらと遠ざかった彼の背中とこちらとを見たニャアンが、ペットロボットを抱きしめて眉を下げる。彼女にもなにか似たようなことがあったらしかった。「いえ」と首を振り、「心配することはありませんよ」と付け加える。ほっとしたように息を吐いた彼女はマチュの方へと駆け戻っていった。ペットロボットを抱えているのとは反対の手に冷えたボトルをふたつ持っている。飲み物を取りに来ていたところだったらしかった。
 離れていくエンジンの音を聞きながら、ぼんやりと海を眺める。反射する光を眺めたり、きゃあきゃあとじゃれる彼女たちに呼ばれてアイスクリームを渡しに行ったりしていると、あのエンジンの音が段々と近付くのが聞こえた。
 なにをしに、と顔を上げたシャリアの元に、やけにきらきらとした顔をした彼が駆けてくる。ぎょっとして立ったまま半歩後ずさった。つい先程まで何処にでもあるようなウェアを着ていた彼は、どうしてか今は派手な花柄のシャツを羽織っていた。
「シャリア! これを!」
「それを……!?」
「着てくれないか!」
 きらきらとした笑顔で渡された袋を開ける。シロウズが持ってきていたものは、彼と揃いの柄の派手なシャツだった。
 これを着るのかと躊躇して、そっと袋を閉める。「シャリア……?」と子犬のような顔で見上げられて、シャリアは呆気なく負けて再び袋を開けた。長袖のウェアを脱いで派手なシャツを羽織る。ハート型のサングラスに太腿を覆った遊泳ウェア、派手な花柄のシャツを着た、浮かれきった男の完成だった。
 機嫌よさげに唇を緩めた彼が肩を寄せる。触れはしない距離がかえって気恥ずかしくて、シャリアはそっと赤い頬を逸らした。
 夏の浜は、ひどく暑い。
 少し離れた浜辺では、マチュとニャアンが互いの足の爪に揃いの色を塗りあっていた。
 

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